SFからBLまで…『なかよし』黄金期の異才「あさぎり夕」が紡いだ「可憐で美しき世界」の画像
あさぎり夕著『青い宇宙のルナ』(講談社)

 7月21日は漫画家で小説家でもある故・あさぎり夕氏の誕生日である。1970年代から90年代にかけては、おもに少女漫画誌『なかよし』(講談社)などで活躍。1987年には代表作のひとつの『なな色マジック』で「第11回講談社漫画賞」を受賞された人気漫画家だ。

 その後ボーイズラブ小説家として「僕達シリーズ」(小学館)や「親猫子猫シリーズ」(集英社)といった大人気シリーズも輩出。ほかにも「Mr.シークレットフロアシリーズ」(作画・剣解氏)の原作を担当されたり、「朝霧夕」の名義でお色気満載な少年漫画『ミッドナイト・パンサー』を手がけるなど、多岐にわたる活動の場で人気を誇った。

 とはいえ70年代、80年代の『なかよし』を読んで育った世代にとってあさぎり氏は、やはり可憐な絵柄で展開される王道の少女漫画の印象が強い。そこで、小学生の頃はあさぎり氏の漫画『花詩集 こでまりによせて』の絵力に魅了されて『なかよし』の切り抜きを下敷きに入れていた筆者が、あさぎり作品の魅力を振り返ってみたい。

※本記事には各作品の核心部分の内容を含みます。

■繊細なタッチで少女漫画とSFを融合させた意欲作

 幅広いジャンルの作品を手がけるあさぎり氏だが、SFをモチーフにした少女漫画といえば1978年に発表された短編『青い宇宙のルナ』を思い浮かべるファンは多いかもしれない。

 涼やかなビジュアルのヒロインの姿や、『なかよし』8月増刊号に掲載されたこともあって、同作について筆者はいまだに初夏のさわやかなイメージを抱き続けている。

 作品の舞台は未来の地球で、人類はコンピューターに管理されていた。地球連邦のパトロール員「リック=エマーソン」は、パトロール中に隕石流に巻き込まれ、惑星ガイアに不時着する。そこでリックはルナという美しい少女と出会い、ふたりは次第に惹かれ合っていく。

 しかしその後、惑星ガイアは500年前まで反逆者を処刑するための“流刑星”であったことが判明。本来ガイアの空気には有毒ガスが含まれていたが、流刑囚だった女性科学者がガスを中和させる研究に成功。それにより、流刑囚の子孫が現在まで生き延びていたのである。

 ただ平和な暮らしを望むというルナの想いを聞いたリックは、地球連邦にかけ合うことに。しかし、コンピューターに支配された地球の答えは、危険分子であるガイア人は抹殺するということだった。

 この結論に異議を唱えたリックは反逆者となり、追っ手の攻撃によってルナは命を落としてしまう。そしてリックはルナの亡骸を抱えて宇宙艇に乗り込むと、新天地を求めて惑星ガイアを脱出する船を守るため、地球連邦に特攻をかけて物語は終わる。

 40ページ程度の読切り作品ではあるが、まるで『ロミオとジュリエット』のようなリックとルナの悲恋が印象深い。さらに惑星ガイアでは女神と崇められる女性科学者のレアを親愛するイケメン神官の存在など、女性読者のツボも押さえていた。

 また、コンピューターに支配されて思考停止した地球人や、科学力でなんとか生き延びて別の星への移住を夢見るガイア人の対比なども見事に描かれている。もちろん『なかよし』掲載の作品なので少女漫画の枠におさめているが、SFとしても十分に読み応えのある作品である。

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