大人が読んでもマジ怖い…名作『ズッコケ三人組』シリーズ、意外に知らない「本格ホラー作品」 「恐怖体験」に「学校の怪談」も…の画像
那須正幹『ズッコケ恐怖体験』(ポプラ社)

 世代を超えて愛され続ける、那須正幹さんによる児童文学シリーズ『ズッコケ三人組』。やんちゃ坊主のハチベエ、読書好きのハカセ、のんびり屋のモーちゃんという、てんでバラバラな小学生トリオの活躍に、心躍らせた少年少女は数多いだろう。

 本シリーズではミステリー、SF、オカルト、ホラーなど、幅広いジャンルで3人の日常や冒険が描かれている。中でも特に、作者が“こわい話が大好き”と公言しているだけあって、オカルト・ホラーものは超本格的。身の毛もよだつ恐怖描写の数々には、子どもの頃ずいぶんと怯えさせられたものだ。

 ふと懐かしくなって読み返してみたところ、そうしたホラー作品は大人になった今でも十分怖かった……。

※本記事には作品の内容を含みます

■ハチベエの豹変シーンが怖かった『ズッコケ恐怖体験』

 夏休み、3人組がハカセの祖父母の家に遊びに行くところから始まる『ズッコケ恐怖体験』。はじめは海の綺麗な村を舞台に、泳いだりおいしい魚を食べたり、平和で楽しい時間を過ごす彼らの姿が描かれる。

 しかし、村を散策中、彼らは不気味な老婆に「おまえたちゃあ、のろわれとる。」と恐ろしい言葉をかけられる。

 そしてその言葉が現実となったかのように、子ども会の肝だめしでハチベエが本物の女の幽霊と遭遇。“白っぽい着物に長い髪”という定番スタイルの幽霊と対峙したハチベエが金縛りにあうシーンは、妙にリアルでゾクゾクさせられる。

 さて、実はその村では「おたかの幽霊」と呼ばれる存在が昔から噂になっていた。そのためハチベエたちは、怯えた村人たちに追い返されるような形で自分たちの町へと帰るが、恐怖はそこでは終わらない。

 ある日、ハチベエはモーちゃんに向かって「西城めぐみ」という人気タレントについて語っていたかと思うと、突如「西城といえば、西城平四郎というお役人がいたよな。」と訳の分からない話を始める。

 さらに「あのひとのお調べが、いちばんこわかった。手の指と爪のあいだにね、たたみ針をさしこむんです。」と続ける姿は、顔つきも口調もまるで別人。おまけに後から聞いてみると、本人は自分が言ったことを覚えていないという。彼は幽霊にとりつかれてしまっていたのだ。

 唐突なホラー描写が出てくるこの場面では、はじめ一瞬何が起こったか分からず、それからじわじわと恐怖が押し寄せてきた。普段は元気いっぱいのお調子者であるハチベエが、肝だめしをきっかけにおかしな言動をとり始める様子は、ギャップもあって余計に恐ろしい。周りもこれはまずいというわけで、彼を救うべく「おたかの幽霊」の正体に迫ることに……。

 その後、3人組は少しずつ真相に近付いていくが、その過程にも手に汗握る。小さな村を舞台にした幽霊騒動がどんな結末を迎えるのか。やがて明かされる悲しく切ない真相は、ぜひ本編を読んで確かめてほしい。

■“火だるまシーン”がトラウマに…『ズッコケ妖怪大図鑑』

 『ズッコケ妖怪大図鑑』では、ハカセとモーちゃんが住む花山団地で起こった奇妙な出来事が描かれる。謎の足跡が雪の上に残されていたり、誰かに声を掛けられたのに振り返ると誰もいなかったり、一つ目小僧の目撃情報まで寄せられたり……。

 団地には数年後に取り壊される予定の、「旧館」と呼ばれる古いアパートがあり、怪奇現象はすべてその近くで起こっていた。そこで3人組はモーちゃんの姉・タエ子も引き連れ、夜遅くに旧館の空き部屋へ忍び込むという大胆な行動に出る。

 暗い中、怪しげな建物に忍び込む描写は、それだけで子どもにとっては恐ろしいものだが、続く場面はさらにぞっとするものだった。なんと突然巨大な火の球が出現し、4人に襲いかかってくるのだ。

 しかもそれだけではない。それぞれの服に火が燃えうつり、身体が焦げていく過程が臨場感たっぷりに描かれるのである。「火だるまになった人影」「肉の焼ける、なんともいやなにおい」といった文章が想像力を掻き立て、おぞましい情景が目の前に浮かび上がるようだ。

 結局、この出来事は4人が見た幻覚で全員無事だったのだが、登場人物が焼け死ぬ場面は大人になった今読み返してみてもトラウマ級だった。その後も怪奇現象は続くが、個人的にはこのシーンが強烈な印象を残している。

 そんな恐ろしい経験をしてからも3人組は調査を続けるのだが、怪奇現象の背景には町の歴史が深く絡んでおり、歴史ミステリーのように楽しめる1作でもある。

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