■二人だけが知る激闘…インターハイ前の1on1の真実
流川はチームメイトとしてだけでなく、対戦相手として桜木の実力を自らの肌で感じ取っていた。それが、インターハイ直前におこなわれた体育館での1on1である。
練習後、三井寿と流川の1on1の流れから「てめーは 絶対オレに勝てるって言えんのかよ」と、流川に勝負を挑む桜木。
三井と宮城リョータは完敗するであろう桜木のショックを和らげるため、体育館に二人を残して他の部員を追い出した。その後、描かれたのは放心状態で座り込む桜木の姿……。周囲の部員たち、そして読者も、桜木が手も足も出ず完敗したと受け取った。
しかしその真相は、その後の山王戦で流川が桜木に言ったセリフで明らかになる。「オレに全力を出させたんだからよ」というものだ。
誰もが流川が余裕で勝ったと考えていた1on1。しかし実際には桜木に対し、流川は本気を出さざるを得なかったということだ。この時流川は対戦相手としても桜木を侮れない存在として明確に認めていたのである。
■託したラストパス! 最大級の信頼が込められた瞬間
流川が桜木の実力を認め、もっとも信頼した場面。それはやはり、山王戦のラストプレイだろう。
試合残り数秒、湘北は1点ビハインド。自陣でパスを受けた流川はコートを一気に駆け上がり、そのままゴール下へと切り込む。
逆転勝利のための正真正銘のラストチャンス。だが、立ちはだかるのは絶対エース・沢北栄治と河田雅史の二枚ブロックだった。流川でさえシュートコースを完全に封じられる絶体絶命の状況だ。
その瞬間、流川が選んだのは、桜木へのラストパスだった。「左手はそえるだけ…」あの
「1週間で2万本」のジャンプシュート特訓の成果をぶつけるように、桜木は渾身のジャンプシュートで逆転に成功。湘北は劇的な勝利を掴み取るのである。
それまでの流川は、良くも悪くも圧倒的な「個の力」でチームを牽引してきた。しかしこの試合では、自分をも上回る個人技を持つ沢北の存在により「独力では勝てない現実」を突きつけられる。
そして最終的に、流川が勝負を決めるパスを託したのが桜木だった。このラストプレイこそが、流川が桜木を心から認めた何よりの証だろう。そして直後、交わされた二人のハイタッチ。言葉はなくとも互いへの想いが滲む……実に象徴的なシーンであった。
無口でクール、誰にも関心がなさそうに見える流川楓。だが、作中のさまざまな場面を振り返ってみると、彼がいかに早い段階から桜木花道の潜在能力に気づき、必要な場面では言葉や行動で支えていたかが見えてくる。
口では「どあほう」と罵りながらも、桜木の不調には敏感に反応し、時には叱咤し、時にはまるでコーチのように的確な助言を与える姿も印象的だった。
そして最終回、流川は全日本ジュニアのジャージを桜木に見せびらかしている。この姿もまた、リハビリに励む桜木への無言のエールのように思えてならない。不器用ながらも、誰よりも桜木を認めていた男。それが流川だったのかもしれない。