■ラスボスは“コンピューターウイルス”!?『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』

 今回紹介する中でも、とりわけ賛否を巻き起こしたのが、2019年に公開された映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』のラスボスだろう。

 本作は、人気RPG『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』をベースにした、シリーズ初のフル3DCGアニメ作品である。

 物語は原作ゲームの展開をなぞる形で進行し、天空のつるぎ、ゲマとの因縁、伝説の魔物たちなど、懐かしの名シーンが3DCGで再現される。

 そしていよいよクライマックス。誰もが「ここから魔王ミルドラースとの最終決戦か」と身構えたその瞬間、想像のはるか斜め上をいく展開が訪れることになった。

 突如、主人公以外のすべてが静止し、白い仮面と光輪をまとった異形のラスボスが現れる。資料上の名は「ミルドラース」だが、原作の魔王とはまったく異なる風貌と目的を持っていた。

 その正体は、なんとミルドラースに擬態し、侵入した「コンピューターウイルス」であった。彼は主人公に対し「この世界はVRゲームだ」と明かし、ハッキングした力で敵や味方、さらには主人公が冒険した世界そのものを崩壊させていく。

 総監督・山崎貴さんが仕掛けたこのラストには、「斬新で面白い」と評価する声がある一方、「ドラクエでやるべき話だったのか?」という意見も見られるなど、公開当時は大きな議論を呼んだ。

 コンピューターウイルス・ミルドラースは、まさに異色中の異色と言えるラスボスであり、その是非は観る者一人一人に委ねられている。

 

 「ラスボス」といえば、主人公たちがあらゆる困難を乗り越えた先に立ちはだかる“最強の敵”である。

 しかし今回紹介した3作品では、その「正体」自体が視聴者の予想を大きく裏切り、物語の意味や構造すら一変させてしまうような存在として描かれていた。

 こうした“意外すぎるラスボス”は、ときに賛否を呼ぶ大胆な試みでもある。だがそのぶん、物語のクライマックスに強烈なインパクトを与え、観る者の記憶に深く刻まれる。

 あなたの心にも、忘れがたい「ラスボス」がいるのではないだろうか。

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