■厳しくも優しい旅芸人の師匠の最期

 1996年から放送開始となった『家なき子レミ』は、世界名作劇場にとって地上波では最後の作品となった。同作の原作は、フランスの小説家エクトル・マロによる児童文学『家なき子』である。

 世界名作劇場シリーズでは、日本でのアニメ化に際して多少の原作改変が行われてきたが、本作でもっとも大きな変更点は主人公を“少年”から“少女”に変更した点だろう。

 フランスの田舎町で育った少女レミは、養父から人買いに売られそうになったところを旅芸人一座の団長・ヴィタリスに助けられ、一緒に旅をすることになる。

 一見、偏屈そうで人嫌いなヴィタリスだが、レミを救い、学校に行けなかった彼女に文字まで教えてくれた心優しい師匠だった。

 そんなヴィタリスは、実は胸の病を患っており、朝晩が冷え込む冬になると苦しむようになる。そんなとき、一座のスターである小猿のジョリクールが馬車にひかれて大ケガを負う事件が発生する。

 ジョリクールを助けたい一心で獣医に診てもらうため、危険な雪山を越えを決行。しかし不運なことに狼の群れに襲われてしまい、一座の犬であるドルチェとゼルビーノの命が奪われてしまうのである。

 尊い犠牲を出しながらも、なんとか雪山を越えたヴィタリス一座だったが、今度はそのヴィタリスが大量の血を吐いて倒れてしまうのだ。

 幸いにもジョリクールは獣医に診せ、入院させることができた。ヴィタリスのところに戻ったレミがそれを報告すると彼は喜び、再びみんなでお金を稼ぐためにパリに向かうことを決心する。

 しかし、彼らが休んでいた納屋の持ち主が現れて追い出されると、吹雪の中を夜通し歩き続け、ついにパリは目前に。だが、とうとう限界を迎えて動けなくなったヴィタリスは、人嫌いな自分がレミと一緒に旅ができたのは楽しかったと本心を告げるのだ。

 そしてヴィタリスは「たとえワシが死んでも、ワシはいつまでもお前の心の中に住み続ける」とレミに告げ、雪山で死んだ二頭の犬に迎えられるように静かに息を引き取ったのである。

 こうして小猿のジョリクール、犬のカピ、そしてレミによる新たな生活が始まる。ヴィタリスの墓前で「もう泣かない」と宣言しながら涙を流してしまう場面もあったが、それでもしっかり前を向こうとするレミの健気な姿に感動させられた。

■多くの視聴者が涙した悲劇の貴公子との別れ

 最後に紹介するのは、1995年放送の『ロミオの青い空』。同作はドイツ生まれのスイスの女性作家リザ・テツナーの『黒い兄弟』が原作だ。

 19世紀後半、スイスの小さな村で育った少年ロミオは、家計を助けるために自ら人身売買人に身売りし、ミラノで煙突掃除夫となる。まだ11歳の少年ロミオは、過酷な煙突掃除をしながら慣れない都会での暮らしを始めた。

 そんなロミオにとって憧れの存在が、同じ煙突掃除に従事する親友のアルフレド。ロミオより1つ年上の彼は知的でカリスマ性があり、煙突掃除夫の仲間内でもリーダーシップを発揮。いかにも美少年という彼の佇まいは、まるで王子様のようだった。

 実はアルフレドの正体はイタリア貴族の息子で、叔父夫婦によって両親を殺害されていた。そのうえ放火の濡れ衣を着せられ、妹のビアンカと逃亡していたのである。

 しかし、第29話「永遠のアルフレド」でロミオたち仲間の協力を得て、アルフレドは自分たちの無罪を国王に証明。ようやく叔父夫婦に裁きが下される。

 アルフレドは仲間たちに感謝を述べて未来を語るが、このとき彼は肺結核を患っており、余命わずかだった。

 親友のロミオと教会で祈りを捧げたアルフレド。そして「ありがとう、キミは本当にボクの希望そのものだ」と、自分が叶えることのできない夢をロミオに託し、朝日が差し込む教会で静かに息を引き取ったのである。

 その悲しすぎる別れのシーンに泣いた視聴者は多いことだろう。


『世界名作劇場』シリーズにはさまざまな作品があるが、子ども向けとはいえ、世間の厳しさや理不尽さなどを隠すことなくしっかり描いていた。それに、そんな作品から学んだこともたくさんある。幼い頃に泣かされた『世界名作劇場』の名作を、今の子どもたちに観せたいと思った人も多いのではないだろうか。

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