容赦なく襲う悲劇の死…『世界名作劇場』子ども心に衝撃を受けた「永遠の別れ」と「せつない愛」の画像
DVD『フランダースの犬 vol.9』(バンダイナムコフィルムワークス) (C)NIPPON ANIMATION CO.,LTD.

 昭和の時代、ふだんは「アニメばかり観てはダメ!」と口うるさい親も笑顔で許してくれる、子どもにはうれしいテレビアニメがあった。それが関東圏では日曜の夜7時30分からフジテレビ系列で放送されていた『世界名作劇場』シリーズだ。

 海外の小説や童話などを原作にした子ども向けアニメで、おもに日本アニメーションが制作。テーマは作品ごとに異なるが、冒険、出会い、別れ、困難、成長など、同年代の主人公たちを通じて視聴者が共有できる内容だった。

 基本的にファミリー向けの作品ではあるが、苦難続きのシリアスな展開の中でかけがいのない人物との永遠の別れも容赦なく描かれている。今回はそんな世界名作劇場の作品の中で、当時多くの子どもたちが涙したであろう重要人物たちの最期を振り返ってみたい。

※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。

■貧しい少年に孤独をもたらした「悲しい別れ」

 1975年に放送されたのが、現在は世界名作劇場の第1作目として扱われている『フランダースの犬』(当時「カルピスこども劇場」の枠で放送)。同作はイギリスの女性作家ウィーダの短編小説が原作になっている。

 1870年頃のベルギー・フランダース地方を舞台に、絵を描くのが得意な少年ネロと荷車引きの犬パトラッシュの友情を描いた物語だ。

 ネロは金物屋の主人に捨てられた老犬のパトラッシュを引き取り、祖父のジェハンと貧しくも穏やかな生活を送っていた。

 娘を亡くしたジェハンは幼かった孫のネロを引き取り、老体に鞭打って生計を立てていた。彼は金物屋にパトラッシュを奪われそうになった際はお金を支払い、絵描きになるというネロの夢を応援してきた心優しき人物である。

 しかしジェハンの老体に日々の重労働はこたえたのか体調を崩し、病に臥せってしまう。

 一方ネロも牛乳運びの仕事が減ったことを気にして、祖父に内緒でキツイ港の仕事を始めていた。

 そして第44話「おじいさんへのおみやげ」の回で悲劇が訪れる。港の仕事で給金をもらったネロは高価な肉を買って帰るが、ジェハンの体は限界を迎えようとしていた。

 木さじで一口だけ食べて感謝を述べたジェハンは、「ネロ、いい絵を描くんだぞ」と言い残して息を引き取る。祖父の体にすがりついてネロが号泣する場面は、涙なしには観られなかった。

 さらに続く第45話「ひとりぼっちのネロ」の回では、元気だった頃の祖父ジェハンを思い出しながら、ネロに訪れた孤独が描かれている。風が吹きすさぶ物悲しい描写は、残されたネロやパトラッシュの暗い未来を暗示しているかのようだった。

 その後、ネロは風車小屋の放火を疑われて仕事を失い、唯一残された希望だった絵画コンクールにも落選。そして最終話(第52話)、すべての希望を失ったネロは、吹雪の教会でパトラッシュとともに天に召されてしまうのである。

 当時の子どもたちが涙で目をはらし続けた本作。その結末はあまりにも悲劇的で知られているが、ジェハンとの別れのシーンも忘れられない。最後まで報われなかったネロには、優しい祖父やパトラッシュと天国での再会を願わずにはいられない。

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