
今年で創刊70周年を迎える少女向け漫画雑誌『りぼん』(集英社)。本誌はラブストーリーやファンタジー、ギャグはもちろん、近年ではホラーテイストの作品などバラエティに富んでおり、今も昔も小中学生の少女たちを中心に人気を博している。
ターゲットが若年層のため、子どもたちも楽しんで読める作品が多い『りぼん』だが、本誌出身の漫画家のなかには、その後、大人向けの作品を発表している人もいる。学生たちの爽やかな恋愛物語から一転、同棲や浮気、ラブシーン……など、大人の恋愛模様が描かれたこれらの作品にドキドキした“りぼんっ子”も多いだろう。
そこで今回は『りぼん』出身の有名漫画家が描いた大人向け漫画を紹介したい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■大人なストーリーにハマった『NANAーナナー』矢沢あい
17歳の時に『りぼん』でデビューし、その後『天使なんかじゃない』や『ご近所物語』など名作を生み出してきた矢沢あい氏。恋愛に友情にまっすぐ向かっていく等身大の主人公たちが魅力的で大ヒットとなり、1990年代の「りぼん黄金期」を彩った。
そんな矢沢氏が描いた大人向け漫画といえば、その人気からアニメ化・映画化もされ、一世を風靡した『NANAーナナー』だろう。
2000年に『Cookie』(集英社)で連載が開始された本作は、現在までに21巻の単行本が発売されているが、長らく休載中となっており、未完のままになっている。
本作は、小松奈々と大崎ナナ、同じ名前を持つ2人の女性主人公を中心に、彼女たちの人生を描いた物語だ。
大雪が降る新幹線の中で偶然出会った2人は、運命に導かれるように同居生活をスタートさせる。見た目も性格も正反対の奈々とナナだが、意外と相性は抜群で、互いにかけがえのない存在になっていく。だが、彼女たちの進む道は穏やかなものではなかった……。
本作は登場人物たちの恋愛模様が中心に描かれているためラブシーンも多く、大人向けの表現も非常に多い。
同棲や浮気、予期せぬ妊娠、さらに薬物依存や生計を立てるために体を売るキャラクターも登場するなど、登場人物1人1人が全力でもがき苦しむ様子に読んでいてつらくなることもあった。矢沢氏の卓越した画力、繊細に描かれた心理描写もあり、まるで実際に見ているかのような臨場感で物語に引き込まれてしまうのだ。
休載してから早16年となるが、いまだに再開が望まれるのも納得の“未完の名作”と言えるだろう。
■同棲カップルのリアルな姿『カプチーノ』吉住渉
『ハンサムな彼女』『ママレード・ボーイ』などで知られる吉住渉氏。数々の名作を生み出し続け、昨年、画業40周年を迎えた。
そんな吉住氏が描いた大人向け漫画が、2008年から『コーラス(現在の『Cocohana』)』(集英社)で連載された『カプチーノ』だ。
小嶋在と藤谷颯介は、大学で出会い、付き合い始めて4年が経つカップルだ。社会人になってすれ違いが多くなってしまったことから、2人は同棲を決意。お揃いのマグカップを買うなど同棲へのワクワク感でいっぱいの2人は、その後、波乱などもなさそうなほど仲睦まじく過ごしていた。
しかし、颯介が勤める予備校の生徒・真崎愛菜から告白されたことで、在と颯介の関係は大きく変わっていく。はじめは真崎からの誘いを断っていた颯介だが、彼女の押しに負けて一線を越えてしまうのだ。積み上げた積み木が崩れてしまうように浮気相手にほだされてしまう颯介の姿がやけにリアルで、読んでいると胸が苦しくなる展開が続いていく。
同棲当初、在が淹れてくれたカプチーノを飲み、幸せそうに笑っていた2人の姿を思い出すとなんとも切なくなってしまう……。
『ハンサムな彼女』や『ママレード・ボーイ』では、いろいろな形の恋愛模様を描いてきた吉住氏。どこか非現実的な設定で描かれる恋愛は思わず憧れてしまうものばかりだったが、それに対し『カプチーノ』でのリアルな大人カップルの恋愛模様も非常に繊細で印象深い。
全7話と短いが、同棲カップルのリアルな姿を描いた読み応えのある本作。ぜひ一度、読んでみてほしい。