エボシ御前にクシャナ、ドーラも…大人になるとわかる『スタジオジブリ』作品の「敵役女性たちのカッコ良さ」の画像
『風の谷のナウシカ』© 1984 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, H

 日本のみならず、世界中で愛され続ける『スタジオジブリ』の作品たち。自然との共生や主人公の成長をテーマに描かれているものが多く、主人公が数々の困難を乗り越えながら成長していく姿は、世代を超えて多くの人々の心を魅了する。

 そんなジブリ作品に欠かせないのが、主人公に立ちはだかる敵役たちだ。なかでも、賢く強い女性が敵役として登場することも多く、子どもの頃に見たときは「早く成敗されないかな……」なんて思ったりしていた。

 だが、大人になって見返してみると、敵役の女性にはそれなりの正義があり、彼女たちの存在は作中でもひときわ大きなものであった。今回は『ジブリ』の人気作品に登場する、強くてカッコいい女性キャラを紹介したい。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■弱者を救ったリーダー『もののけ姫』エボシ御前

 まずは、1997年に公開された映画『もののけ姫』より、強くて美しい女性の「エボシ御前」を紹介したい。

 エボシは山犬の娘として育った「もののけ姫」こと、サンにとっては、自分の住む山を奪い、愛する家族(山犬たち)を迫害する敵である。

 自然豊かな山々を切り崩し、自分の目的のためにはときに誰かを犠牲にしても構わないという冷徹さもあるエボシ。一見非情に見える人物だが、彼女が造り上げた理想郷である「タタラ場」の人々はみんなエボシを尊敬していた。

 タタラ場は身売りされた女性や病気になった者など行き場のない人たちが集まる、いわば弱者の集落である。そのような村を統べるエボシは分け隔てなく彼らに接し、仕事を与え、人間としての尊厳を与えてきた。

 作中では、長(おさ)と呼ばれる体中を包帯で覆われた老人が、“エボシだけが自分を人として扱ってくれた唯一の存在”と言っていた。彼女がどれほど弱者に対して真摯に優しく接してきたかが分かる言葉だ。

 タタラ場は女性中心に動く社会であり、性別や年齢を問わず誰もが生き生きと生活している。このような理想的な社会を作るには、エボシのような強く決断力のある女性が必要だろう。そして彼女のような存在は、現代社会にこそ求められているのかもしれない。

■映画だけでは分からない『風の谷のナウシカ』クシャナの素顔

 1984年公開の映画『風の谷のナウシカ』にも、主人公・ナウシカの敵として強い女性が登場する。それがクシャナだ。

 クシャナはトルメキア国王であるヴ王の第4皇女だ。ナウシカが住む風の谷を占領し、ペジテ市の地下に眠っていた巨神兵を用いて、腐海や蟲たちを焼き払おうとする。

 クシャナの印象的なシーンといえば、腐りかけた巨神兵の傍らで「焼きはらえ!」と命令し、向かってくる王蟲たちを巨神兵の出す光線で一網打尽にする場面だろう。映画でのクシャナは冷酷で恐ろしい印象がある。

 しかしクシャナの目的は辺境の国々を統合し、人が安心して暮らせるような王道楽土を作ることだった。高圧的な態度ではあるものの、風の谷の人々には「私に従うものにはもはや森の毒や蟲どもに怯えぬ暮らしを約束しよう」と、宣言している。

 また本作は宮崎駿監督の原作漫画が元になっているが、映画で描かれているのは単行本全7巻のうちの2巻半までだ。原作漫画ではクシャナの壮絶な過去や部下を思いやる様子が描かれており、ナウシカとの絡みも多い。

 ときにクシャナは「戦友としての忠告ならきかぬでもない」とナウシカの考えを受け入れたり、野心家の部下・クロトワがケガを負った際には彼を抱え上げて避難するなど、人の意見も聞き、優しい一面を持っていることが分かる。

 部下からの信頼も厚く、カリスマ的なリーダーシップを随時発揮しているクシャナ。頭脳明晰な彼女がもっとうまくナウシカと共闘できていたなら、王蟲の暴走は避けられたのかもしれない。

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