■ぶっ飛んだ技が登場するようになった背景とは?

 もっとも、『テニスの王子様』の初期の必殺技の中には、プロの試合でも実践されているものも多かった。

 リョーマの代名詞だった「ツイストサーブ」は名選手のロジャー・フェデラーが使いこなしており、いわゆるポール回しとされる海藤の「ブーメランスネイク」や桃城の「ダンクスマッシュ」「ジャックナイフ」はプロならお手の物である。

 そんな中、“スタンド”的な能力が『テニスの王子様』に登場したのは、本編の「無我の境地」がきっかけだ。26巻で初登場したこの技以降、本作は技名を叫びながら繰り出される凄技の応酬へとシフトしていく。

 作者の許斐氏はこの路線について、「(『ジャンプ』で連載されている)ファンタジー系の作品に負けたくなかった」「ファンタジー要素のあるもの、大見得を切って必殺技を繰り出す作品は、子どもが夢中になります。それが必要だと思いました」と語っている。つまり、『テニプリ』のぶっ飛んだ技の数々は、ただ奇抜さを追求したのではなく、ジャンプという激戦区で勝ち抜くための戦略でもあったのだ。

 その思想の中には、読者を“笑わせる”意図すら含まれている。例えば、SNSで話題になった透明になる技「不会無(ふえむ)」や、馬に乗ってテニスをする描写などは、「ツッコミ待ち」であると許斐氏は明言。一歩外れた描写を盛り込むことで、読者が思わずツッコみたくなるよう意図しているというのだ。

 ただし、「あくまでもテニスのルール内で、というのは大前提です」とも語っており、その美学が見てとれる。テニスという競技のルールを“ギリギリ守りつつ”、その枠内でどこまで“逸脱”できるか――その緊張感こそ、『テニプリ』の真髄なのだ。

 

 これまで数々の必殺技で読者の度肝を抜いてきた『新テニスの王子様』。その進化はとどまる所を知らず、もはや能力バトル漫画のような雰囲気になってきている。テニスという枠の中でどんなぶっ飛んだ展開が繰り広げられるのか、今後の展開からも目が離せない。

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