永遠に畑を耕し続ける者、永久追放された者…『銀河鉄道999』星に“たった一人”で暮らす住人の「悲しき宿命」の画像
『さよなら銀河鉄道999-アンドロメダ終着駅』4Kリマスター版(C)松本零士・東映アニメーション (C)東映アニメーション

 1977年から連載が開始された、松本零士さんが描く不朽の名作『銀河鉄道999』は、機械の体を求めて宇宙の星へ旅立つ少年・星野鉄郎の物語だ。

 謎多き美女・メーテルとともに、銀河超特急999号に乗り込んだ鉄郎。彼らが旅の途中で停車する星では多くの出会いがあるのだが、それぞれの星の住人たちは誰もが幸せなわけではない。なかには広大な星において、たった一人で生活を強いられている者も存在した。

 誰もいないなか、なぜ彼らは一人その星で暮らし続けているのだろうか。今回はたった一人で暮らす孤独な住人たちにスポットを当て、その悲しき理由やエピソードを紹介したい。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■仲間を肥料にして永遠に畑を一人で耕す男「賽の河原の開拓者」

 「賽の河原の開拓者」のエピソードには、広大な星でたった一人、ひたすら土地を耕す権兵衛という男が登場する。

 空中にミニチュアの宇宙のような星雲がたくさん浮遊する「賽の河原」という星に降り立った999号。

 そこで鉄郎が見たのは、石や岩しかない荒野で一人土地を耕す権兵衛の姿だった。鉄郎はその後、権兵衛が撒いた種を食い荒らす怪鳥をやっつけるのだが、その際、彼が死んだ仲間を液体肥料にしていることを知り「なんてことをするんだ!!」と、憤る。

 しかし権兵衛は、“なぜ仲間を肥料にしてはいけないのか”と、鉄郎に問う。そして「みんな、この星を緑の作物の豊かな星にしようと志を同じくしてやってきた同志たちだ」「目的のために、役に立つことを願って死んでいった!」と、胸を張るのであった。

 見ると死体はみな満足そうに笑っていた。星を出発した999号で「帰りにここを通る時には、あの星が緑の星になっているような気がするね」と、メーテルに伝える鉄郎であった。

 権兵衛は仲間とともにこの星にやってきたが、緑の大地にするために働いては死んでいった。生き残った者は次々と死んでいった人の志を受け継いできた結果、今は権兵衛だけになってしまっていたのだ。

 たった一人残された彼の皮膚は泥で覆われ、もはやその泥が皮膚のようになり、感覚まであるように感じるという。権兵衛が異形の姿でこの星にただ一人生き残っているのは、星を緑で満たすという執念が彼の肉体そのものを変容させたからかもしれない。

 たった一人残された使命を果たすため、今日も権兵衛は畑を耕し、多くの種を撒いているのだろう。

■一人意地の悪い心を残し死んだ女「亡霊トンネル」

 「亡霊トンネル」のエピソードには、音を吸収しない暗闇のトンネルの中、一人で暮らすイローゼという女性が登場する。

 999号は全ての音が反響する不気味なトンネルに閉じ込められてしまう。暗闇から現れたイローゼと名乗る女性は、鉄郎に一緒に遊んでほしいと涙ながらに懇願し、断ると999号を押しつぶそうとしてくるのであった。

 仕方なくイローゼの部屋を訪れた鉄郎だったが、出された食事は鉄化プラスチックなど食べられない物ばかりで、ことごとく意地悪をされる。しかも999号をトンネルに足止めしたのも彼女の仕業だと知り、鉄郎の怒りは爆発。鉄郎はアンドロイドであるイローゼをバラバラにして倒し、自らの手で機械を操作して999号を危機から脱出させた。

 そもそもイローゼは、アンドロイドを造った人の亡霊だった。その人物は人の嫌がることばかりをして迷惑をかけ続け、最終的に人々に嫌われ自殺したのだという。しかし自分の嫌な心をトンネルに残したため、鉄郎が体を壊してもまた自分で修復して永遠に嫌がらせを繰り返していくのだ。

 イローゼは意地の悪い心だけでできた亡霊なので、一人暗闇の中にいてもおそらく寂しさなどは感じないだろう。体を壊されてもまた修復し、来る人に意地悪をするというのは、もはや怨念としか言えない。

 暗闇で一人暮らす寂しい環境ではあるが、決して同情はできない恐ろしい孤独である。

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