
キツい、汗くさい、モテなさそう。お世辞にもスタイリッシュとは言いがたい柔道部は、漫画の世界では昔から“敬遠されがちな部活”として描かれてきた。それでも作品に登場する柔道部員たちは、そんなマイナスイメージを跳ね返し、ありとあらゆる手で新入部員の心をつかもうと奮闘する。
今回は、そんな漫画で描かれた「柔道部の勧誘シーン」に注目してみた。先輩たちはいかにして後輩を「柔の道」へと引き入れようとしたのか。そのユニークなアプローチを振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■嘘も方便? “ラクな部活”を謳う『柔道部物語』
小林まこと氏の名作『柔道部物語』では、リアリティ溢れる勧誘方法が描かれる。作者自身が柔道部出身ということもあり、その説得力は抜群だった。
物語の舞台は岬商業高校。吹奏楽部に入るつもりだった新入生・三五十五(さんごじゅうご)は、中学時代に水泳部だった親友・秋山一郎を誘って軽い気持ちで柔道場を見学に訪れる。そこで迎えたのが、2年生の小柴哲也だ。
小柴は“吹奏楽部と水泳部は去年つぶれた”、“部に入ってないとむりやり応援団に入れさせられる”と騙し、さらに「髪型は自由、練習は1日1時間半、土日は休み、掃除当番も免除、女子にモテる、就職にも有利」と、三五たちを見事に丸め込んでいく。挙句の果てに“月1回は文化部の女子とレクリエーションもある”など、存在しない“夢のような柔道部ライフ”を次々と語り、2人を仮入部させてしまうのだ。
だが、初日の軽い練習のあと、先輩たちの態度は一変。竹刀を振り回しながら“セッキョー”と称するシゴキが始まり、地獄のような練習の日々が幕を開けるのだった。
その後、それでも逃げずに練習に食らいついた三五は柔道の魅力に引き込まれ、やがて才能が開花。日本屈指の選手へと成長していくこととなった。
ちなみに、三五が3年生になり全国制覇を成し遂げた場面では、OBとなった小柴がテレビの画面越しに「ウソついて…あいつを引っぱってきたのは ほんとに俺なんだ…」と呟くシーンがある。あの“勧誘の日”を思い起こさせる名セリフとなっている。
■諦めない情熱で“メリット”を訴求『YAWARA!』
浦沢直樹氏の『YAWARA!』でも、柔道部の勧誘に全力を尽くすキャラクターがいる。それが主人公、猪熊柔の親友・伊東富士子(いとうふじこ)だ。
柔道部のない三葉女子短大に入学した柔にどうしても柔道を続けてほしい富士子は、なんとひとりで柔道部を設立。部員ゼロのなか、彼女は部員勧誘に奔走していく。
最初に入部したのは「体を丈夫にしたい」という理由から、自ら門を叩いてきた日陰今日子。しかし、その後の部員集めは難航。だが、富士子は決して諦めない。
グラマラスな体型の小田真理には「自分を守る護身術」として、男運に恵まれない南田陽子には「男をぶん投げる方法」として、さらに、ふくよかな四品川小百合には「体重を落とすダイエット」として、“柔道のメリット”を訴えていく。
こうして誕生した素人ばかりの“日本一弱い女子柔道部”は、富士子の熱意と柔という圧倒的な選手、さらに「勝ち抜き戦」という大会形式にも助けられ、女子学生団体対抗大会「紫陽花杯」で、まさかの優勝を果たすことになった。