最初はマヤの本命だったのに、速水真澄には勝てないのか…『ガラスの仮面』桜小路優の涙ぐましい恋の軌跡の画像
『ガラスの仮面』第35巻(プロダクションベルスタジオ)

 1975年に『花とゆめ』(白泉社)で連載が始まった、美内すずえ氏の名作『ガラスの仮面』は、累計発行部数が5000万部(2021年時点)を超える金字塔の少女漫画である。単行本は49巻まで刊行されているものの、現在は13年間におよび連載が休止している。

 本作には演劇の天才少女・北島マヤはもちろんのこと、大都芸能の若き社長でマヤの思い人の速水真澄、マヤの永遠のライバル・姫川亜弓など、魅力的なキャラが多く登場する。

 しかし読み返してみると、カッコ良くて演劇の才能もあるのに、どうしても不遇に思えるキャラがいる。それがマヤに想いを寄せる桜小路優(以下、桜小路くん)だ。ここでは、主要キャラにもかかわらず、いつもかわいそうな立場に置かれてしまう桜小路くんについて、振り返ってみたい。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■最初はマヤが憧れるプリンスだったけど…出会いのシーンからうまくいかないフラグが?

 桜小路くんとマヤが出会ったのは、コミックス1巻でのこと。マヤが窓をよじ登り「劇団オンディーヌ」の芝居を盗み見るシーンだ。しかし、劇団員が放った犬にマヤは襲われてしまう。

 そこにさっそうと登場したのが劇団オンディーヌに所属する桜小路くんだった。犬を蹴散らしたあと傷の手当ての終わったマヤを劇団内に優しくエスコートし、周りから茶化されても毅然とした態度で彼女をかばう。そんな彼の振る舞いに対しマヤは顔を赤らめ、“親切でいい人だな……”と、胸をときめかせていた。

 これだけ見ると、桜小路くんはこのあとマヤにとってのプリンスになりそうなものだが、これらのシーンでマヤを守った人物はもう一人いた。それがのちにマヤの運命の人となる速水真澄である。

 真澄は犬を蹴散らしたのち、さらっとマヤを持ち上げ、お姫様抱っこで医務室まで運んでいる。

 このシーンは物語のごく序盤の出来事だが、この展開はマヤと桜小路くん、真澄のこの先の三角関係を暗示しているといえるだろう。そしてそういう意味では、この時点で桜小路くんはマヤと結ばれない運命のフラグが立っていたのかもしれないとも思えてしまうのだ。

■切なすぎる…「ぼくはいつまできみのいいボーイフレンドでいなければならないんだろう?」

 最初の出会いから桜小路くんとマヤは何度も会う機会があり、全日本演劇コンクールで久しぶりの再会をしたときには、桜小路くんは“ぼくはかわっていないよ ずっと以前からきみが好きだよ”と事実状の告白をしている。それに対しマヤは大喜びして、まるで相思相愛かのような態度を見せている。

 しかしその後、共演をきっかけに俳優・里美茂とあっさり付き合うこととなったマヤ。そのとき桜小路くんは彼女を思い切り抱きしめ、「さようならマヤちゃん」と言って走り去る。そんな桜小路くんに対し、マヤは泣きながら心の中で謝っている。

 だが、そんな別れがありつつも、その後も桜小路くんはなにかと登場しマヤを献身的に支えては、再び恋人っぽい立ち位置になる。

 しかしマヤは演劇に没頭するあまり、ふたりの関係は友人以上恋人未満の状態から進展しない。桜小路くんはそのような状況に苦しんで、“ぼくはいつまできみのいいボーイフレンドでいなければならないんだろう?”と思い悩むのであった。

 思えば桜小路くんは『ガラスの仮面』の連載当初からずっとマヤのことを思い続け、ほかの女性に目移りすることはなかった。途中で舞という彼女はできるものの、それもマヤを忘れるために付き合った妹のような存在であった。

 一方のマヤは桜小路くんに対し恋愛感情のようなものは抱くものの、いざ舞台がはじまると彼をそっちのけで演劇に没頭。さらに里美や真澄に心を奪われたりもしており、桜小路くんの気持ちには応えない。

 自分がピンチのときは桜小路くんにしっかり甘えるのに、その気持ちは受け入れない……そう考えると、実はマヤは天然の“あざとい女性”なのかもしれない。

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