■魔法にサヨナラした日『ヤング版ひみつのアッコちゃん』

 赤塚不二夫さんによる名作少女漫画『ひみつのアッコちゃん』。その異色の読み切り作品として、1981年、創刊間もない『週刊ヤングマガジン』に掲載されたのが『ヤング版ひみつのアッコちゃん』である。巨匠ゲスト企画の一環として描かれた本作は、18歳になったアッコちゃんの青春と葛藤、さらに思春期のセンシティブなネタも盛り込んだ挑戦的なエピソードだ。

 物語は、高校生になったアッコが部屋の掃除中、小学校時代に使っていた「魔法のコンパクト」を偶然見つけるところから始まる。あれだけ夢のような時間を過ごしたはずなのに、どうやらアッコはコンパクトの存在すら忘れていたらしい。

 そんなアッコは、親友のモコちゃんと同じ男子・原君に恋をしていた。友情と恋心の狭間で揺れ動くアッコはコンパクトの力を使い、原君の母親に変身。彼との距離を縮めようとするが、アッコを待っていたのは思いもよらぬ現実だった。

 家にいる原君は、外で見る姿とは違い、ママに甘える筋金入りのマザコンだった。口から飛び出した「ボク ママしか好きじゃないもーん!!」という衝撃のセリフに、アッコの恋心はあっという間に冷めてしまう。

 魔法のコンパクトによって、知らなくてよかった現実まで知ってしまったアッコ。最後に「スリルのない人生なんて……」とつぶやき、もう二度とコンパクトを使わないと心に決めるのだった。

 本作は、赤塚さんならではのギャグ調で終始展開される。しかし、その実は“大人になったアッコ”と“魔法”との決別を描いた、ほろ苦い後日談だった。

 

 かつて子どもたちに夢と希望を届けてくれた名作たち。その「後日談」で描かれていたのは、決して希望に満ちた未来ばかりではなかった。むしろ、胸に突き刺さるような現実、成長の代償としての喪失、時には救いのない絶望さえも描かれていた。

 だがそのぶん、そこには原作者たちが読者に向けて込めた強いメッセージが込められていたように感じる。あの頃のキャラクターたちの「その後」を知ることは、かつて読者だった私たちが今の自分と向き合う、ひとつのきっかけになるかもしれない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3