■禁忌を容赦なく描くストーリー
高河さんの代表作として挙げられる『アーシアン』をざっくり説明するなら、「異星人が地球人を監視する物語」。地球人を“アーシアン”と呼称し、“天使”と呼ばれる監視者が実は異星人という設定はかなりユニークだ。
随所にコミカルなシーンを盛り込みながら、人間や天使たちが織りなす、美しくもドロドロとした愛憎劇が展開された。その斬新なストーリーは、当時の若い読者に、まるで毒のような刺激を与えてくれた。
たとえば、主人公・ちはやたちの母星で死罪とされる同性愛、親子や兄妹間での愛欲、種族を越えた恋慕など、タブーとされる掟や倫理観に容赦なく切り込み、ファンの心を激しく揺さぶった。
その一方で、短編集『マインドサイズ』に収録された描き下ろし作品『グラス・マジック』のような正統派のラブコメ作品もお手のもの。メガネにコンプレックスを抱く少女の健気な姿にキュンキュンさせられる、とても可愛らしいお話だ。高河ゆんファンなら、こちらもぜひ一度読んでいただきたい。
■記憶に残る「秀逸なセリフ回し」
美麗な絵柄と独特な世界観、表現力に定評のある高河さんだが、なにより印象に残りやすいのが読者をドキッとさせる強烈な「言葉」だ。
自身を過剰に卑下するキャラや、劣等感を抱いているキャラに対し、周囲の人間が投げつける言葉は辛辣で、鋭利な刃物のように鋭い。とくに『ローラカイザー』のささめや、『ゲシュタルト』のスズに対する言葉は読んでいて胸が痛くなったほどだ。
また、秀逸なセリフ回しもファンの心をつかんで離さない。『アーシアン』のちはやと影艶が一線を越える場面で、「雷は神鳴とも書くんだって」から「神さまが見てるよ」という一連のセリフは、このときの背徳感を見事に表現。ゾクッとさせられるとともに作品に引き込まれた。
高河ゆんさんの描く作品の多くは、ハンデやコンプレックスを背負った主人公が理不尽な目にあいながらも、理解者や愛する者を手に入れる過程に救いが生まれる。
美しくもおぞましく、恐ろしいのに優しく、ロマンティックなのにセクシュアリティ……そんな相反する要素が混在する世界観に、読者は魅了され続けるのだ。