■死ねないという苦悩…機械の体がもたらすもの

 機械化人になると、人間にはないメリット、デメリットが存在する。

 まずメリットとして挙げられるのが「永遠の命」だろう。人間とは違って寿命というものがない機械化人は、たとえ体がボロボロになってもその都度交換すれば、永遠に若々しい体で生きられるのだ。

 たとえば「二重惑星のラーラ」に登場する機械化人たちはみな美しい。この星の機械化人は生まれてすぐに体を機械化させるため、最初から美しい姿で何百年も生き続けているという。このほかにも機械化人は“人の命の炎”を食べたり、自分だけの惑星を造り上げたりと、人間にはできないことをやってのける。

 しかし機械化人にも体温がなく常に寒かったり、食べ物を味わえなかったりといったデメリットがある。

 なかでもメリットとして挙げた「永遠の命」は、考えによっては恐ろしい。

 「宇宙僧ダイルーズ」に登場する、600年ものあいだ修行を積んできた修行僧・ダイルーズは、鉄郎とかかわるうちに自らの過ちに気づき、再び修行に身を挺する。しかし永久に死なない機械化人の彼は頭だけの姿になった挙げ句、本当の悟りを開くまで今後も数千年も苦しい修行をし続けるという。

 また「震動駅」には、戒厳令違反で地表に追放された「首なしのレジスト」という機械化人が登場する。彼女は今後も死ぬことなく、たった一人で永久に地表で生きていかなくてはならない。

 こうした苦行が永遠に続くことを考えると、はたして機械化人になることは本当に幸せなのかと考えさせられてしまう。

 

 『銀河鉄道999』では「機械化人になり永遠の命は人を幸せにするのか?という普遍的なテーマも盛り込まれている。それについて作者の松本零士さんは過去のインタビューでこう答えている。

 “私は、機械化したい人間がいれば機械化すればいいし、生身で生きたいならそれでいいと思う。どちらが幸福かは、その人の人生が終わってみなければわからない”と。

 機械の体を手に入れることが本当に幸せなのか——。鉄郎の旅を通して読者もまた、自分自身の生き方や幸せについて問い直すことになるのだ。

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