
『ガンダム』シリーズにおいて、巨大な人型機動兵器であるモビルスーツ(MS)での戦闘シーンは大きな見どころのひとつとなっている。そしてそんなMSを格納し、補給や補修の拠点となるのが戦艦などの大型艦艇である。
パイロットや乗組員にとって帰るべき場所となる母艦は、絶対に沈められてはならない守るべき場所だ。それでもときには激しい戦闘のなかで重要な艦が散っていく場面も描かれた。
しかし主人公たちが乗りこむ母艦には、素晴らしく優秀な操舵手も存在した。そこで本記事では、乗組員たちの命を運ぶ重責を担う操舵手たちが、死線をくぐり抜けた「神操艦」シーンについて振り返っていきたい。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■クルーの明暗を分けた紙一重の回避劇
多くの『ガンダム』シリーズに登場する大量破壊兵器。特に遠距離から放たれる強力な一撃は、数々の艦艇を宇宙の藻屑にしてきた。当然、主人公たちが乗る母艦に向けて放たれることもあったが、優秀な操舵手たちはこれをギリギリで回避し、命を繋いだのである。
たとえば『機動新世紀ガンダムX』の最終話「月はいつもそこにある」のエピソードでは、主人公ガロード・ランも乗る宇宙巡洋艦「フリーデンII」の操舵手シンゴ・モリが、神操艦をみせた。
月面のマイクロウェーブ送信施設からフリーデンII、アマネセル、ガーベラの3隻が発艦するが、フロスト兄弟によって放たれたサテライトランチャーによってアマネセルとガーベラは撃沈されてしまう。
そのとき、フリーデンIIにもサテライトランチャーのビームが迫ったが、シンゴ・モリによる懸命の回避行動により艦底スレスレで見事に回避した。
このときシンゴ・モリは、宇宙の滞在経験がほぼなく、フリーデンIIの操艦もマニュアルを読んで覚えたばかりという状況だっただけに驚きだ。
また同様の回避シーンは『機動戦士ガンダム00』でも見られた。第24話「終わりなき詩」にて最終決戦を控えたソレスタル・ビーイングの面々は、宇宙輸送艦「プトレマイオス」のブリッジから巨大モビルアーマー「アルヴァトーレ」の存在をはるか前方に確認する。
不意打ちでアルヴァトーレの主砲「大型GNキャノン」がプトレマイオスに向けて放たれると、操舵手のリヒティ(リヒテンダール・ツエ―リ)は即座に舵を切り、艦の側面をかすめながらも致命的な損傷を避けてみせた。
続けざまに放たれた2射目についても素早い反応を見せたリヒティ。見事な操艦によって完璧に避けきったのである。
このときソレスタル・ビーイングが所有するガンダムはプトレマイオス内にて出撃待ちの状態だったため、リヒティの神回避がなければガンダムもろとも撃沈されてもおかしくなかった。
まさに世界の命運を分けたリヒティの操艦だったが、そのあとリヒティは好意を寄せるオペレーターのクリス(クリスティナ・シエラ)をかばって壮絶な最期を迎えたのが惜しまれる。
■語り継がれる驚異の背面飛行
舵を切って攻撃を回避するのではなく、機転を利かせた操艦で窮地を脱する離れ技を見せたのが、初代『機動戦士ガンダム』で「ホワイトベース」の操舵手を務めたミライ・ヤシマだ。
第19話「ランバ・ラル特攻!」にて、ランバ・ラル隊の奇襲を受けたホワイトベースは、艦の後方からMS「ザク」の接近を許してしまう。
後方への射撃を担当する者が不在という状況のなか、ミライは機転を利かせてホワイトベースを全速前進。メインエンジンの巨大なスラスターから放たれたジェット噴射にザクを巻きこみ、撃墜してみせたのである。
ホワイトベースの熱核ハイブリッド・エンジンによる、ばく大な推力を武器にしたミライのとっさの判断には感心させられた。
さらにミライの神操艦シーンは、この場面の直後にも訪れる。
ランバ・ラルが搭乗する「グフ」が、ホワイトベースに取りついた場面。ヒートロッドによる攻撃を受ける緊迫した状況で、ミライは「グフを振り落とします!」と告げると、まさかの背面飛行を敢行。艦体をひっくり返すことで、グフを振り落とすことに成功したのである。
逆さまになった艦内がどうなっていたのかは分からないが、地球の重力下という状況を活かしたミライの発想と操舵技術には頭が下がる。
ホワイトベースが最終決戦まで不沈艦であり続けられたのは、こうしたミライの大胆な操艦があってのことなのは間違いないだろう。