思わずグッとくる…大人になってから見るとイメージがガラリと変わる「スタジオジブリ作品」の画像
『千と千尋の神隠し』 (C)2001 Studio Ghibli・NDDTM

 前作『風立ちぬ』から10年の時を経て、2023年に公開されたジブリ映画『君たちはどう生きるか』。宮崎駿監督の集大成ともいえる映像美と深いテーマに多くのファンがうならされ、海外でも「アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞」を受賞するなど高く評価された。

 心を揺さぶる物語と圧巻の映像表現で、世界中の子どもたちを夢中にさせてきたジブリ作品。大人になってから見てみると、作品のそこかしこに散りばめられた意外なメッセージ性に気付かされ、また新しい感動を得ることができるのが面白い。

 そこで、大人になった今だからこそより一層楽しめる、味わい深いジブリ作品を振り返っていこう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■空を駆ける男たちの物語…『紅の豚』

 1992年に公開された『紅の豚』は、世界大恐慌に揺れるイタリアを舞台にアドリア海を飛び回る空賊たちと、豚の姿をした賞金稼ぎ、ポルコ・ロッソことマルコ・パゴットの活躍を描いた物語である。

 コメディタッチなシーンが多いなか、ときに飛行艇同士のスピーディな空中戦が繰り広げられたりと、独特の緩急が観る者を惹きつける。

 そんな本作の顔ともなっている主人公・マルコだが、大人になるとより一層、男性としての彼の魅力、カッコ良さに気付かされてしまう。

 クールなマルコは群れることを嫌う一匹狼である一方、昔馴染みのジーナやヒロインのフィオ、女性や子どもには寛大な態度を見せたりと、根の部分に深い優しさを持っていることが分かる。また、そのうえで飛行艇に乗ることへの飽くなき情熱を抱いている点も、大きな魅力だ。

 彼がジーナに向けて放った「飛ばねぇ豚はただの豚だ」という言葉は、まさに本作に秘められた男の美学をこれでもかと濃縮した名セリフだ。

 また、大人になると分かるのが、マルコのライバルとして活躍するカーチスの独特の魅力である。富と名声を得るためにマルコに執着するカーチスだが、彼の目的はやがてフィオとの結婚……すなわち、かけがえのない愛へと向けられていく。

 実に俗っぽい一面を持つカーチスだが、その一方、恋に破れたジーナの本心を汲み、彼女の気持ちに気付こうとしないマルコに鉄拳で思いを伝えるなど、不器用なまっすぐさにも思わず心動かされてしまう。

 空に生きる男たちの姿から、「カッコイイとは、こういうことさ。」のキャッチコピーのとおり、本当の「カッコイイ」とはどんなものかを考えさせられてしまう、実に味わい深い名作である。

■人間による自然破壊の残酷さ…『平成狸合戦ぽんぽこ』

 1994年に公開された『平成狸合戦ぽんぽこ』は、昭和40年代の東京・多摩ニュータウンを舞台に描かれた現代ファンタジー作品だ。

 物語は、開発計画によって居場所を奪われようとしているタヌキたちが「化学(ばけがく)」を用いて、あの手この手で人間たちへと立ち向かっていくというもの。

 デフォルメされたタヌキたちの独特の日常や、彼らが化けるさまざまな妖怪の描写、人間たちに抵抗するために繰り出される珍妙な作戦など、人間VS狸という抗争を面白おかしく描いている。

 子どもの頃に本作を見た時には、どこか人間臭いタヌキたちの可愛らしい姿に心踊らされたものだ。しかし大人になって見てみると、人間による環境破壊の身勝手さ、無慈悲さがこれでもかと伝わってくる。

 人間が住みやすい街を作り出すための素晴らしい計画も、野生動物たちからすれば住む場所を一方的に蹂躙されているだけなのだ。人間たちは、憎悪の対象となってしかるべきだろう。

 だが、本作では、人間に立ち向かったタヌキたちの必死の抵抗がなに一つ報われることがない。実に現実的な結末が待ち構えているのだ。

 命を懸けた作戦の数々もすべて他愛ないニュース記事程度にしかならず、結局、人間の心が大きく変わることなどありはしなかった。

 タヌキたちの目線からファンタジーとして平成の世を描きながら、一方で徹底したリアルさをもあわせ描くことで、現実の非情さ、歴史の物悲しさを伝えている本作。

 最終的に居場所を奪われたタヌキたちは、それでも人間に化け続け、ときにはどこかで仲間と出会い、歌を歌って楽しむ。作り物の自然であるゴルフ場で楽し気に踊り歌う彼らを見ていると、その健気さに思わず胸を締め付けられてしまうのだ。

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