■少女は社会の縮図のなかで成長する…『千と千尋の神隠し』

 2001年に公開された『千と千尋の神隠し』は、八百万の神々が住む異世界に足を踏み入れた少女・千尋が、捕らわれた両親を救い出すために奮闘、成長していく和風ファンタジー作品だ。

 子どもの頃は作中に描かれる摩訶不思議な世界観と、奮闘する千尋の活躍に目を奪われていたが、大人になると神々の世界にもしっかりとしたルールが存在し、そこには彼らなりの社会ができあがっている点にも目が行くようになった。

 それが強く描かれているのが、千尋が働くこととなる湯屋「油屋」で繰り広げられるシーンの数々。まさにそこでは我々が生きる現代同様、一つの会社のような集合体が形成され、それぞれが労働をしている。

 生きるためには何かをこなし、社会のために貢献せねばならない……舞台は神々の世界だが、そこには現実世界に通ずる社会の縮図がしっかりと描かれているのである。

 ただの小学生として生きてきた千尋にとっては過酷な環境だが、集合体のなかで働き、自分の意味や居場所を手に入れたことで、彼女は急成長を遂げていくこととなる。

 湯婆婆にも激昂された通り、「グズで、甘ったれで、泣き虫」だった少女は、自分自身で悩み、考え、色々なことを選択し進んだからこそ、やがては自身を喰らおうとするカオナシにすら動じず向き合うだけの強さを手に入れられたのではないだろうか。

 当初、釜爺に対しお礼の言葉すら言えず怒られていた千尋だが、最終的には自分や家族を縛り付けていた湯婆婆にすら頭を下げ、きっちりと筋を通すしたたかさを見せつけていた。

 逆境を乗り越え進み続ける彼女の姿に、子どもたちはもちろん、大人までも心を震わされることだろう。

 

 独創的な世界観とハイクオリティな映像表現で多くのファンを持つジブリ作品だが、夢中になるのは子どもたちだけではない。歳を重ねたことでストーリーや描写の裏に隠された思いがけないメッセージ性に気付くこともあり、その魅力に何度でも強く惹きつけられてしまう。

 大人になった今だからこそ、かつての名作たちを今一度、深く味わってみてはいかがだろうか。

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