
1977年から松本零士さんにより連載がスタートした『銀河鉄道999』。銀河を旅する少年・星野鉄郎と、謎の美女・メーテルが999号に乗ってさまざまな冒険をする物語で、半世紀を迎えようとしている今もなお世界中の人に愛される不朽の名作だ。
ところで、本作に登場する「999号」に乗るためには、銀河鉄道の定期券(パス)が必要であり、これがないといかなる理由があっても乗車できない。
鉄郎は幸運にもメーテルから無期限有効のパスをもらったことで999号に乗車できているわけだが、そんな大切なパスを鉄郎はやたらなくしてしまう。
ここでは鉄郎がパスを失くした経緯、そのたびどのように取り返してきたのか、印象的なエピソードを振り返ってみたい。そこには思いがけないドラマチックな展開があった。
※本記事には各作品の内容を含みます
■パスを盗んだ少年を奇跡的に見つける「大四畳半惑星の幻想」
鉄郎がパスを失くす大半の理由は、行く先々でパスを盗まれてしまうからである。999号に乗るには莫大な費用が必要で、一生をかけて働いても手にすることは難しいと言われるほど。そのため隙のある(?)鉄郎は、惑星で下車するたびに狙われてしまうのだ。
原作で最初にパスが盗まれるシーンが登場するのが、コミックス1巻「大四畳半惑星の幻想」のエピソードだ。
鉄郎とメーテルは昔の地球によく似た「明日の星」に到着する。快適な星でラーメンを食べ、幸せな気分で昼寝をした2人だったが、寝ている間にパスを盗まれてしまう。
2人は2週間の停車期間中、パスを探すものの見つからない。いよいよこの星に住むしかない……と覚悟を決めつつ駅に向かうと、ベンチに座り思いつめた様子で2枚のパスを眺める青年がいた。
偶然にもパスを盗んだ犯人を見つけた鉄郎たちだが、様子をうかがっているとその青年はベンチにパスを置いて立ち去ろうとする。
その様子を見たメーテルは、“なぜパスを盗んだのに、999号に乗車しなかったのか”と尋ねる。すると青年は「にげだしてみても結局なんにもならないと思ったから……」「ここでできないことはよそでもできない……」と、打ち明けるのだ。それを聞いた鉄郎は相手が泥棒だと分かっても、バイトをして買ったカップラーメンを差し出すのであった。
ずるいことをしてその場から逃げても、その先の人生はうまくいかない。それを悟った青年に対し、鉄郎なりのエールを送ったのだろう。
この星ではほかにも人情味にあふれた人々がたくさん登場し、鉄郎たちを励ましている。パスを盗まれるトラブルこそあったものの、鉄郎にとっては多くの学びがあったエピソードであった。
■勇気を持って父親からパスを取り返してくれた少年「嵐が丘のキラ」
鉄郎のパスを盗むのは、子どもや青年のみならず、良い年をした大人も例外ではない。コミックス7巻「嵐が丘のキラ」では、まさかの人物が犯人として登場し、読者は驚かされた。
一日中すさまじい嵐が吹き続ける「嵐が丘」の駅に降りた鉄郎とメーテル。ホテルでの就寝中に鉄郎はパスを盗まれ、犯人とおぼしきキラという青年を追い詰める。キラの父親は「人さまの物を盗むなんてっ!!」と殴りつけ説教するものの、キラは「そんな物知らないよっ!!」と認めない。
結局パスは見つからず、999号に乗ることができない鉄郎。するとそこにキラが現れ、“パスを取り戻すから列車に乗り込む方法を考えてくれ”と言う。
その言葉を信じた鉄郎とメーテルがキラを999号に連れて行くと、そこにはキラの父親が鉄郎のパスを持って乗車していた。つまりパスを盗んだのはキラの父親で、彼は自分の息子を犯人に仕立て上げ、1人で銀河鉄道に乗って逃げる気だったのだ。そんな父親に対しキラは銃口を向け、“パスを返さないと頭を打つ”と宣言する。
鉄郎のパスを巡り、切ない親子関係が浮き彫りになった今回のエピソード。父親の考え方を反面教師にしたのか、キラの取った行動は立派だった。この世の終わりまで風が吹き荒れる「嵐が丘」の過酷な環境は、人の心まで荒れさせてしまうのか……。最後にキラが鉄郎に言った「おれはいつか必ず宇宙へ出る、どこかで会ったら仲なおりしような」という言葉が、せめてもの救いだった。