
漫画の主人公というと、10代の人物をイメージする人は多いだろう。しかしなかには、「中高年のオジさん」を中心に展開される漫画も存在する。
カッコ良さや美しさを兼ね備えた若々しい主人公たちと比べると、どうしても魅力に欠けると思われてしまうかもしれない。だが、侮るなかれ……哀愁漂う背中や隠し持つ焦燥感など、人間臭い主人公たちの姿も非常に魅力的なのだ。
そこで今回は、ついつい共感してしまう中高年のオジさん主人公を紹介していこう。思わず「頑張れオジさん!」と声をあげたくなる反面、勇気をもらえるはずだ。
※本記事には各作品の内容を含みます
■めっちゃわかる中年節…哀愁・羨望・卑屈といった感情がむき出し『最強伝説 黒沢』黒沢
中年のオジさんが主人公の漫画といえば、福本伸行氏の『最強伝説 黒沢』(小学館)の主人公・黒沢は外せない。本作は『賭博黙示録カイジ』や『アカギ〜闇に降り立った天才〜』を描いた福本氏の異色作ともいえるコメディ人情漫画である。
黒沢は建設会社のベテラン作業員で、名目上は現場監督だ。しかし人望がなく、44歳の誕生日には誰からも気づいてもらえず、工事現場の誘導を促す作業員型のロボットに太郎と名付け、涙を流しながら太郎を抱きしめて寝る始末。
黒沢はこれを機に「人望が欲しい…!」と、生き方を変えるべく奮闘するのだが、不器用なことも相まっていつも空回ってしまう。18歳から26年も頑張ってきたのに誰にも相手にしてもらえないなんて……寂しい気持ちは分かる気はする。
だがそこで歓心を買うために思いついた策が、部下たちの弁当に自腹で購入したアジフライを密かに入れ感謝してもらうことだった。だが、そもそも誰にも気づかれない。だってアジフライ弁当に思えるだろうし……。
しかもその後、もう1人の現場監督・赤松のアジフライを盗んだと、なぜか犯人扱いを受けてしまう黒沢。誤解はどうにか解けるも、今度はアジフライを入れたことを奇行だと気味悪がられてしまう。まあ「アジってハートの形してるだろ…!」なんて言ってしまうものだから、そりゃ気持ち悪いと思われても仕方ない。
独身の黒沢は、カップルよりも家族連れが目に入るのがつらいと言い、焦燥・哀愁・羨望・卑屈など、“中年のオジさんあるある”を、見事に体現してくれていた。同世代の筆者は黒沢の気持ちが分かるときがあり、どこか恥ずかしくなってしまうものだった。
ただ、黒沢はこのままではいけないと奮起し続ける。中学生にボコられたり、警察沙汰になったりもするのだが、必死に抗っていくのだ。
物語前半、黒沢は見ていて痛々しいほどに圧倒的に冴えない中高年だったが、次第に周囲の共感を得ていき、自然と人望が付いてくるのだから面白い。
本作での黒沢の魂の叫びは、現代社会のアラフィフ男性たちにも共感できるものではないだろうか。
■冴えないオジさんが機械化して正義感を発揮する『いぬやしき』犬屋敷壱郎
オジさん主人公といえば、奥浩哉氏の『いぬやしき』を思い出す人も多いだろう。
本作の主人公・犬屋敷壱郎は58歳の平凡な中年サラリーマンだ。実年齢よりも老けた見た目をしていて、なぜかいつも冷や汗をかきプルプル震えている。もともと正義感が強いタイプだが、基本的には温厚かつ気弱なので行動に移せない。壱郎はそんな自分の無力さを嘆いていた。
さらに壱郎は家族とも距離があり、ほとんど無視されている。苦労してお金を貯め念願のマイホームを購入したのに、高校生の娘には「まあ……こんなもんか」、中学生の長男には「ちっさ……」と言われてしまう始末だ。
なんとも可哀そうになるのだが、他人ごとではない。筆者も含め、同じような思いをしている中年世代は少なくないだろう。
追い打ちをかけるように余命3カ月の胃ガンを宣告され、人生に絶望してしまう壱郎。ところが、愛犬・はな子と散歩中、公園で謎の爆発に巻き込まれ、なんと体が機械化してしまうのだ。
上空を飛ぶ飛行機の窓側の人物を視認できるほどの視力、離れた場所の声が聞こえる聴力など、特別な能力を身につけた壱郎は、中学生にロケット花火で暴行を受けるホームレスに遭遇。思わず守ろうとするが、逆にボコボコにされてしまう。
だが、機械化された体は自然に反撃し、ホームレスを守るだけでなく中学生たちのプロフィールやSNSを把握し、電波ジャックをして暴行現場や暴言をテレビや動画で拡散する。
ホームレスから泣きながら感謝された壱郎は、人助けという自分の存在意義を見つける。そこからの壱郎は、困っている人を助ける中年ヒーローとして活躍していくのだ。
一番カッコ良かったのは、やはり機械化した直後の壱郎だろう。これまで迷惑をかける若者たちに憤りを感じても何もできなかったのに、ホームレスを助けようと自然と立ち向かっていっていた。
余命宣告を受け、さらに体が謎の機械化を遂げてしまい、絶望していた背景もあるだろうが、それでも弱者を守るため暴漢たちの前に立ちはだかった勇気は素晴らしかった。