■『幽☆遊☆白書』飛影が黒の章を欲しがった理由
最後に紹介したいのが、冨樫義博氏による『幽☆遊☆白書』で飛影が欲しがったとされる黒の章についてである。
黒の章は霊界の巨大資料館にある極秘テープで、人間の非道で残忍な行為が何万時間と録画されている。蔵馬がその説明をした際、飛影が欲しがっていたとさらりと触れられているのだが、その理由は不明だ。
作中ではこの黒の章を見た御手洗清志が、人間に対して激しい嫌悪感を抱き、仙水の過激な思想に共感するようになっていた。
そんなおぞましい内容のテープを飛影がなぜ欲しがったのかというと、それはもう想像するしかない。まず単純に考えられるのは、黒の章は霊界でもかなり貴重なアイテムなので、売り飛ばしたり交渉の材料に使ったりする可能性である。
飛影はもともと盗賊なので、こういった珍しい品物に興味を示したのかもしれない。次に考えられるのが雪菜救出の手がかりを探すためだが、これは可能性が低そうである。魔界の扉編のエピローグで、黒の章と思しきテープをちゃっかり手に入れている飛影の姿が描かれているからだ。
いずれにせよ、人間を狂わせてしまうほどの効果を持つ黒の章が、飛影にとっても利用価値があるものだったのは間違いない。
作品に残された謎は、全てを明らかにするのが必ずしも正解とは言えない。なんとなく匂わせることで、読者がそれぞれ解釈したり考察したりするからだ。
そうした考察の余地があると、完結後も何度も読み返したくなり作品が盛り上がるのにもつながる。そう思えば、謎のままというのも意外と悪くないかもしれない。