
2024年、ロサンゼルス・ドジャース所属の大谷翔平選手がメジャーリーグ史上初の50ー50(50本塁打、50盗塁)を達成したことは記憶に新しい。誰も到達できないだろうと思われていた「アンタッチャブル」の実現に、日米の野球ファンは大いに盛り上がった。
だが、途方もない大記録といわれると、漫画好きとしては日本の名作野球漫画を思い出してしまう。近年の大谷選手の大活躍は「漫画以上」ともよく称されるが、現実では達成者が現れないんじゃないかと感じるような、フィクションだからこそ成立した大記録に読者はワクワクし、ロマンを抱いたのもまた事実。
今回は、往年の野球漫画主人公が達成した「アンタッチャブル」すぎる大記録を振り返ってみよう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■稀代の名捕手は高卒ルーキーから記録尽くし!『ドカベン』山田太郎
日本プロ野球で大暴れした野球漫画の主人公ならば、水島新司さんの名作『ドカベン』の山田太郎は外せない。甲子園通算打率7割超えという明訓高校のスーパーキャッチャーは、プロ入り後、シーズン162打点などの日本記録を打ち立てている。
そのなかでも彼が高卒ルーキーイヤーで記録した成績はまさにアンタッチャブルと呼ぶにふさわしい。高卒1年目からレギュラーの座を勝ち取った山田は打ちに打ちまくり、本塁打王、打点王、新人王のトリプル受賞を果たした。
ただ、このトリプル受賞の記録はなんと、現実世界でも巨人の長嶋茂雄さんがルーキーイヤーに達成している。
実は山田のアンタッチャブルな記録は、この中の本塁打数だ。現実での高卒新人シーズン本塁打記録は、西武ライオンズ(当時)の清原和博さんが持つ31本。山田は32本をマークしており、単独1位なのだ。
清原さんが達成した1986年から、約40年近くも破られてない記録だけに、その偉大さがわかるだろう。時代は違えど、さすがは山田太郎と言わざるを得ない。
ちなみに、高卒新人捕手が新人王に選ばれた例は、日本プロ野球史に存在しない。1年目から2つの大記録を樹立するとは……これも山田の凄さが物語るエピソードだ。
■未だ日本人受賞者なしのサイヤング賞を2度も!『MAJOR』茂野吾郎
次は、満田拓也さんが描く『MAJOR』(小学館)の天才ピッチャー・茂野吾郎を見てみよう。最速100マイル(160キロ)オーバーの豪速球が持ち味の吾郎は、少なくとも渡米6年目までにメジャーリーグでサイ・ヤング賞を2回受賞したと語られている。
ピンとこない人もいるかもしれないが、これはとんでもない話だ。サイ・ヤング賞はメジャーリーグでその年最も活躍した投手が選ばれる賞で、ピッチャーにとって最高の栄誉とされている。村上雅則さんや野茂英雄さんら、日本人投手がメジャーリーグに挑戦してから現在まで、日本人ピッチャーがこれまで一度も受賞できてない。
一度受賞するだけでもすばらしい賞だが、メジャー全体に目を向ければ、サイ・ヤング賞が制定された1956年から2025年現在まで、同賞に2回以上選ばれたプレイヤーはわずか22人のみ。端的にいえば、吾郎は、『MAJOR』世界におけるメジャーリーグの歴史に名を刻んでいるのだ。
これは余談だが、吾郎はメジャーを引退後、34歳で日本球界にバッターとして復帰し、最終話でホームランを打ってみせた。サイ・ヤング賞を獲得したピッチャーが日本でバッターとして再起する……これも現実ではなかなかお目にかかれないドラマだろう。