
漫画作品がアニメ化される際、「原作との違い」がクローズアップされることがある。
たとえば、過去に二度テレビアニメ化された内藤泰弘さんの『血界戦線』(2009年から連載)。2017年から放送された『血界戦線 & BEYOND』は原作に忠実だった一方、最初のアニメ版である2015年放送の『血界戦線』では、テレビアニメ版オリジナルキャラクターの双子ホワイト(メアリ・マクベス)とブラック(ウィリアム・マクベス)が登場するなど、大胆な改変で話題となった。
ただ、アニメ版で設定が大きく変わるのは珍しいことではなく、特に昭和時代には、アニメならではの設定が土台となった作品も多かった。今回はそんな、原作と「大きな設定の違い」があった昭和アニメ作品を振り返ってみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■オリハルコンの剣がない! 拾った人物が違う!? 最終回がネガティブすぎな展開だった『海のトリトン』
1972年よりTBS系列で放送されていた『海のトリトン』は、5000年前に滅ぼされたトリトン族の末裔・トリトンが、宿敵・ポセイドン族を倒すため海を旅する冒険譚だ。『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーとして知られる西崎義展さんが企画・製作し、当時としては全27話と短いながらも人気のアニメだった。
70年代に子ども時代を過ごした人なら、緑の髪の少年が赤いマントをなびかせながら白いイルカで海を駆け、オリハルコンの短剣で大きな敵を倒す姿を見たことがあるかと思う。
原作は手塚治虫さんが日刊サンケイ新聞に1日1ページ掲載した『青いトリトン』(1969年から連載)だが、テレビアニメ化にともない『海のトリトン』に改題されている。
そんな原作に対し、アニメでは大胆な変更がいくつもなされた。たとえば、アニメでトリトンは漁師の一平爺さんに拾われる。だが、原作では漁師の息子で主人公・和也に拾われており、しかも和也は物語途中で殺人を犯して失踪。そのため、主人公がトリトンへと移行するという驚きの展開を見せるのだ。
また、アニメ版『トリトン』の代名詞ともいえる「オリハルコンの剣」は原作になく、なにより最終回が全く違う。原作の最終回は連載と単行本とで何通りかあるのだが、悪の根源・ポセイドンを“倒して”終わるというのが共通する内容だ。
一方、富野由悠季監督によるアニメ版は真逆で、悪と思っていたポセイドン族が被害者で、トリトン族が加害者。つまり、被害者側の末裔トリトンによる復讐劇かと思いきや、わずかに生き延びていたポセイドン族が最終回でトリトンに“全滅”させられるというトラウマ級のネガティブな展開となっていた。
本作で初のテレビシリーズ総監督を務めた富野監督は、『週プレNEWS』(2021年公開)で「『トリトン』は不出来な作品だったので、徹底的に作り直す、文句あるか!という態度で挑んだ」と語り、「手塚先生からのクレームなどは一切なかった。原作タイトルが『青い〜』から『海の〜』に変わったのは、自分の仕事を認めてくれたと思った」とも述べている。
つまり『トリトン』という作品は、手塚さんが「SF伝奇もの」として描いた漫画を、富野監督がアニメ版で「青春の挫折」として描き上げたことで全く違う内容になったのだ。
■普通の料理漫画だったのに…!?『ミスター味っ子』
『食戟のソーマ』、『焼きたて!!ジャぱん!』、『中華一番!』など、これらの作品に共通しているのが調理や実食での“大きなリアクション”であろう。
その元祖とされるのが、1987年からテレビ東京などで放送されていたテレビアニメ『ミスター味っ子』だ。
原作は1986年から『週刊少年マガジン』(講談社)で連載されていた寺沢大介さんの同名漫画で、亡き父が遺した日之出食堂を母と支える少年・味吉陽一が味皇(あじおう)に見出され、さまざまな料理人たちとグルメバトルを繰り広げる。
アニメ製作を『ガンダム』で知られるサンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)が担当し、本作が監督デビューとなった今川泰宏さんがダイナミックで奇想天外な演出で人気を不動のものとした。
寺沢さんの漫画もノリが良くパロディも盛り込まれていたが、アニメでは今川さんにより少々カオスな世界観へと改変されている。
たとえば、包丁ひと振りで食材が綺麗に切れるのは序の口、海の上でまな板サーフィンをしながら刺身をさばいたり、1987年にアメリカで公開された『ロボコップ』のパロディとして“ロボコック”をいち早く取り入れたりと、原作には見られない演出を採用した。
特にアニメでは味皇・村田源二郎のリアクションは凄まじかった。料理を解説する前に口からレーザービームのような「うまさ」を放出したり、時代劇の“遠山の金さん”に扮したり、極めつけが巨大化して大阪城と戦ったりなど、やりたい放題。
また、人物設定も異なっている。アニメ版で陽一の幼なじみとして登場する山岡みつ子は漫画には登場せず、ライバル・堺一馬の弟子であるコオロギ少年(神呂木仁)は少女に変更。イタリアンシェフ・丸井さん(丸井善男)がアニメ版では陽一の母と再婚するなど、原作との違いは少なくない。
筆者にはなにより、原作では「料理人が培った技術と創意工夫」でおいしさを作るのに対して、アニメでは「人の思いを込めること」でおいしくするのが、大きな違いに思えた。