
世界的に人気のある尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』。物語も終盤に差し掛かり、「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」へと着実に歩みを進める“麦わらの一味”。船長のモンキー・D・ルフィは数々の困難にぶつかりながらも、その不屈の精神で強敵たちを打ち倒してきた。
しかしそんなルフィも決して絶対的な存在ではなく、絶望的な状況を前に時に打ちひしがれ、戦意を喪失するということもあった。今回は作中で滅多に描かれることのない、ルフィですら諦めかけたその「決定的な瞬間」について、いくつか紹介していきたいと思う。
※本記事には作品の内容を含みます
■「偉大なる航路」突入目前で人生を諦める
まずはルフィが自らの「死」を素直に受け入れた、伝説的なシーンを紹介しよう。
海賊王ゴール・D・ロジャーの生まれ故郷である東の海・ローグタウン。かつてこの町で公開処刑されたロジャーは死ぬ間際「おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ…探してみろ この世の全てをそこに置いてきた」と、笑みを浮かべながら言い放ち、“大海賊時代”の幕を開けた。
そんなローグタウンに立ち寄った麦わらの一味は、「偉大なる航路(グランドライン)」突入の準備をするため各自別行動を取る。一人で死刑台を訪れたルフィは、ロジャーと同じ景色を見るためその上に立つのだが、ルフィに因縁を抱く道化のバギーとその一味によって、そのまま死刑台に捕らわれてしまうのだ。
町に暗雲が立ち込めるなか、ルフィ救出のために死刑台へと走るゾロとサンジ。だが、バギーとアルビダの一味に行く手を阻まれてしまう。その様子を見ながらルフィは仲間の名前を順番に呼びかけ、自らの死を悟ったように「わりい おれ死んだ」とロジャーと同様に笑みを浮かべるのだ。
その直後、バギーが振り下ろした剣に雷が落ちたことで死刑台は崩落。九死に一生を得たルフィは「なははは やっぱ生きてた もうけっ」と、再び笑うのであった。
作中において何度も「海賊王になる」ということを明言し、強敵を前に奮起するルフィ。しかしこの瞬間においては自らの死を受け入れて、サラっと夢を諦めてしまっている。死の間際でありながら、ロジャーと同様に浮かべたあっけらかんとしたこの「笑顔」にも何か重大な意味が込められていそうな、伝説的なシーンである。
■仲間を救えず…あまりの絶望に敵前で泣きじゃくる
深海にある魚人島に向かう準備をするため、シャボンディ諸島を訪れた麦わらの一味。とある出来事をきっかけに、世界の頂点に君臨する貴族・天竜人をルフィが殴り飛ばしたことで、シャボンディ諸島に海軍大将・黄猿が上陸してしまう。
激しい戦闘が繰り広げられるなか、畳みかけるように王下七武海、バーソロミュー・くまが現れ、戦場はさらに混迷していく。
「ニキュニキュの実」の能力者で、その手に有した肉球で触れるものすべてを弾き飛ばすことができるくまは、「旅行するならどこへ行きたい……?」と問いかけた直後、ゾロをどこかへ弾き飛ばした。混乱する一味だが、間髪入れずにブルックとウソップ、さらにはルフィの制止を振り切って突撃したサンジまでもがあっさりと消されてしまうのだ。
「……何だよ どうしたら…!!!」と、一時は地面にへたり込んでしまうも、フランキーのピンチに再び立ち上がり応戦するルフィ。しかしそんな抵抗も虚しく、残りの仲間も消されてしまい、ついに一人になってしまうのだ。
地面に突っ伏し泣きじゃくるルフィは「……仲間一人も゛…!!! 救えな゛い゛っ……!!!!」と、かつてないほどの絶望に飲み込まれてしまうのであった。
普段は考えなしにとにかく敵をぶっ飛ばしていく印象の強いルフィだが、くまという格上の存在によって次々と仲間が飛ばされる様子を見た際はさすがに慟哭し、諦めを見せていた。ルフィの精神的ダメージの大きさが如実に表れたこのシーンは、ファンにとっても絶望的すぎる展開として衝撃を与えた。