■整備兵の痛快な一言「あんなの飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」

 最後は、シャア・アズナブルと名もなきジオン軍整備兵の間で交わされた、痛快なセリフを振り返りたい。

 第42話「宇宙要塞ア・バオア・クー」。残存戦力を結集し、ア・バオア・クーに進攻する連邦軍。それを迎え撃つべく、キシリアはシャアにニュータイプ専用試作機・ジオングでの出撃を命じる。しかし、そのジオングの完成度は80%だという。

 そして場面は格納庫へ切り替わり、シャアはそのジオング担当の若い整備兵と会話していた。完成度80%のジオングに、整備兵は性能は100%発揮できると豪語。そして、足がないことを指摘するシャアに整備兵はこう言い放つ。「あんなの飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」と。

 職人気質のこだわりと、軍上層部に対する皮肉が込められたこのセリフは、視聴者に強烈な印象を残した。

 その後も整備兵はシャアに対して物怖じせず意見を述べ、最後には「うまくやれますよ」と軽く励まして送り出すなど、終始堂々とした態度は整備兵にしておくにはもったいないと思えるほどだった。

 ちなみに、この無名の整備兵は、後の短編小説『月光の夢 宇宙の魂』で、リオ・マリーニという名前が明かされた。さらに『機動戦士ガンダムC.D.A 若き彗星の肖像』でシャアと再会。シャアを脚付きのジオング3号機へと案内するのだった。

 彼は名もなき一兵士に過ぎなかったが、わずか数秒の登場で放った痛快なセリフが強烈な印象を残し、後の作品で正式な名前や新たな登場機会を獲得するに至ったわけだ。これはまさに、名言の持つ力の証明といえるだろう。

 『機動戦士ガンダム』では、アムロやシャアといった主要キャラクターの名セリフだけでなく、脇役やモブキャラが放った何気ない一言にも、作品のリアリティや魅力が凝縮されている。そして本作には、まだまだ語り継がれるべき脇役たちの名セリフが眠っている。改めて作品を見直すと、意外な発見があるかもしれない。

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