■新兵を使わざるを得なかった事情も!?
ジーンのような未熟な新兵がザクに乗り、予定外とはいえ重要な偵察任務にあたることになったのはなぜだろうか。その背景には、当時のジオン軍が抱えていた深刻な人材不足があったと考えられる。
一年戦争の開戦初期、ジオン軍は地球連邦に先駆けてMSを実戦投入し、戦局を優位に進めた。戦火はどんどん拡大して泥沼化するなかで、MSを操縦するパイロットの増員は急務だったはず。
実際、この第1話の数か月後に行われたア・バオア・クーの決戦時にはジオン側のパイロットが足りておらず、貴重な新型機に未熟な学徒兵が搭乗するという描写もあった。高性能な機体が用意できたとしても、パイロットの養成はそう簡単にはいかない。そのジレンマがジオン軍を悩ませた。
デニム曹長がスレンダーを見張りに残し、未熟な新兵のデニムのほうをコロニー内に同行させたのも、比較的危険は少ないと思われる偵察任務で、ジーンに経験を積ませたいという意図があったとしても不思議はない。
このように『機動戦士ガンダム』の第1話で描かれた「ジーンの暴走」には、一兵士の未熟さや独断だけでは片づけられない、複雑な事情が絡み合った結果起こってしまった事象だと思われる。
あの第1話のジーンの行動があったからこそ、アムロ・レイはガンダムに乗り込み、ジオン軍は自ら新たな脅威を呼びこんだかたちになった。その背景に複雑な事情や要因が絡み合っていたと想像すると、『機動戦士ガンダム』の物語がよりドラマチックに感じるのではないだろうか。