
テレビアニメ『機動戦士ガンダム』第1話のサブタイトルは「ガンダム大地に立つ!!」。そのタイトル名のとおり、主人公アムロ・レイがガンダムに乗り込む様子が描かれる重要なエピソードだ。
舞台となったのはスペースコロニー群「サイド7」。ここでジオン公国軍の新兵「ジーン」が起こした“暴走”が、一年戦争の流れを大きく変えることになる。
モビルスーツ(MS)のザクに乗り、偵察任務中のジーンは、上官のデニムの制止命令を無視して地球連邦軍の軍事施設を攻撃。結果的に当時民間人だったアムロ・レイが連邦の新型MSのガンダムに搭乗することになり、一年戦争の表舞台に稀代のニュータイプを引きずり出すこととなった。
一年戦争においてこのジーンの問題行動は、一兵士の暴走で片づけるには大きすぎる影響を及ぼし、まさに歴史の転換点となる。
では、なぜジーンは上官命令に背いて暴走してしまったのか。本記事では作中の描写をもとに、彼の行動の裏側に見え隠れする要因を掘り下げてみたい。
※本記事は作品の内容を含みます。
■ そもそも偵察任務は“予定外”の行動だった
まず注目すべき事実として、ジーンたちが行ったサイド7への偵察任務そのものは、予定されていた作戦ではなかったという点が挙げられる。
アニメの第1話は冒頭からコロニーに潜入するシーンから始まるため、シャア・アズナブル率いる部隊の主任務はコロニーへの潜入と思い込んでいる視聴者もいるかもしれない。
しかし実際には、シャアの部隊は別作戦の帰還途中に偶然ホワイトベースを発見。それを追跡したことで僻地のサイド7にたどりつく。そこから急遽、ザクIIを発進させて現地調査に乗り出したというのが真相である。
つまりジーンが参加したコロニー内への偵察任務は、その流れで急遽行われたもの。あらかじめ連邦の新型MSがコロニー内部にあると確信していれば、シャア自らが潜入任務に参加した可能性も十分考えられる。
結果としてシャアは艦に残り、偵察任務の指揮はデニム曹長に任せた。デニムは部下のスレンダーをコロニー入口付近の見張りとして残し、新兵のジーンを連れて偵察任務にあたっている。その判断の是非はさておき、突発的な任務だからこそ細かい部分は現場の判断に委ねられたことが分かる。
そうしたなか、コロニー内で連邦の新型MSと思しき機体を発見する。デニムは偵察任務に徹するよう指示するが、ジーンはその命令を無視して単身で攻撃を開始。暴走へと突き進んでしまう。
■新兵を駆り立てた“赤い彗星”の大きすぎる背中
連邦のMSを発見したジーンは、冷静なデニムとは対照的に顔に汗をにじませ、口調も荒くなり興奮している様子が見てとれた。
そして「シャア少佐だって戦場の戦いで勝って出世したんだ」「手柄を立てちまえばこっちのもんよ」といったジーンのセリフからは、功を焦る気持ちや出世への強い執着が感じられる。
新兵のジーンが、なぜそこまで血気盛んだったのか。単純に経験不足の面は否めないが、それに加えて直属の上司がシャア・アズナブルだったことも理由のひとつとして考えられる。
“赤い彗星”の異名で呼ばれるシャアの年齢は、このとき20歳。すでに数々の戦功をあげ、この若さにして「少佐」の階級を得ていた。ザビ家の者を除けば異例のスピード出世であり、ジオン軍の若い兵士からすれば、まさに英雄的な存在だったことだろう。
特に直属の上司としてシャアを間近で見てきたジーンにとっては、羨望の存在であると同時に「自分もあのようになれる」と過信しかねない存在でもあったはずだ。
「自分も戦果を挙げて認められたい」という想いが強すぎて、無意識のうちに焦りにつながり、冷静さを失ってしまったのかもしれない。