
少女漫画では、さまざまな恋愛模様が描かれファンを魅了するが、ヒロインが意外な相手と恋人になり驚いた経験はないだろうか。
作中でヒーローとヒロインが幸せになるものだと思っていたら、サブキャラとくっついてハッピーエンドなんてことも。そんな“ヒロインとサブキャラが恋愛成就した”悲しきヒーローたちの姿を紹介していこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■正統派ヒーローの一途な思いが切ない!『ピーチガール』東寺ヶ森一矢
上田美和氏の『ピーチガール』は、1997年から『別冊フレンド』(講談社)で連載されていた。
本編の連載終了後も、スピンオフ作品の『裏ピーチガール』や、続編の『ピーチガールNEXT』などシリーズ化して人気を博したヒット作だ。
見た目は色黒のギャルだが、実は日焼けしているだけのピュアで真面目な安達ももが主人公の本作。ももの想い人として登場するのが“とーじ”こと東寺ヶ森一矢である。
東寺ヶ森は中学時代からももを知る人物で、彼女同様に真面目な硬派だ。野球一筋だった東寺ヶ森は、当時からももを想っており、2人は両想いなのに付き合っていないもどかしい関係だった。
やがてようやく想いが通じ、恋人同士になった2人。しかしそんな幸せは長くは続かず、ももをライバル視する柏木紗絵の妨害にあい、東寺ヶ森はももに別れを告げてしまう……。
ももの身を案じての行動ではあったが、ももはその後岡安浬と付き合ってしまい、東寺ヶ森とヨリが戻ることはなかった。
硬派で不器用な東寺ヶ森と、イケメンで女性の扱いにも慣れている岡安という対照的な2人の間で揺れるもも。ファンはももがどちらを選ぶのか、固唾を飲んで見守っていただろう。
本作を語る上で、紗絵の存在は忘れてはならない。彼女はなぜかももに執着し、ももの恋路をことごとく邪魔していく。東寺ヶ森とももが長年の恋を実らせたのに、裏で手を回し破局させたところでは、誰しも紗絵を恨んだはずだ……。
何よりも切ないのが、東寺ヶ森はももを想い続けているということ。連載当時から「とーじ派」と「カイリ派」に別れていた『ピーチガール』のファンだが、「とーじ派」だった筆者は、「とーじにしとけばいいのに」と何度思ったことだろう。
優しすぎるがゆえ、ももと結ばれなかった東寺ヶ森。彼の幸せを願わずにはいられない……。
■想い合っていても結ばれない!『Paradise Kiss』小泉譲二
矢沢あい氏の『Paradise Kiss』は、1999年からファッション誌『Zipper』(祥伝社)で連載されていた。
ファッション誌の漫画とあって、服飾科に通う生徒たちを中心にオシャレでドキドキする日常が描かれている人気作だ。
真面目一徹の主人公・早坂紫が、デザイナーの卵である小泉譲二に出会ったことで物語は始まっていく。
地味だが、抜群のスタイルと整った顔立ちの紫。彼女はまさに「原石」で、譲二に見出されモデルとしての道を歩んでいく。
はじめは素性がわからずミステリアスな譲二を警戒していた紫だが、強引でハラハラするような危うさをもつ彼に惹かれていく。やがてデザイナーとモデルという関係を越え、恋人同士となる2人。
しかし、自立した女性を愛する譲二と、意志が弱く自己肯定感も低かった紫は少しずつすれ違ってしまう。結果として2人はショーを成功させるものの、破局という結末を迎えるのだった。
デザイナーを夢見てパリへと旅立つ譲二。「一緒に来る?」と尋ねる彼に、紫は「行かない」と答える。お互いを必要としているのは明らかなのに、自分の道を歩くため別れを選ぶこのシーンは、ギュッと胸が締め付けられた。
とはいえ、紫が自身の夢を諦めて譲二と一緒にいることを選んでいたら、譲二はまた紫に失望していたような気もするので、なるべくしてなった結果だったのかもしれない。
譲二の影響を受け、自分に自信を持ち自らの足で歩み始めていた紫。ラストシーンで描かれる10年後では、努力が実を結び芸能界で活躍するようになっていた。そして彼女の隣にいたのは、かつて紫の憧れの人だった徳森浩行だ。
紫の良き理解者で相談相手でもあった徳森。彼は、譲二率いるプライベートブランド「パラダイス・キス」のメンバー・櫻田実和子の幼なじみでもある。
初恋相手だった実和子への思いを引きずっていた徳森だが、モデルとして花開いていく紫の姿を見て、次第に彼女に惹かれていった。
こうして晴れてゴールインとなる紫と徳森だが、紫の心には譲二がしっかりと刻まれているようす。お互いが「恋愛」という枠に当てはまらない大切な存在であることがよく分かる結末は、矢沢氏らしい清々しい読了感を味わわせてくれるものだった。