■「オヤジはもっとうまく盗む」
キルアの印象的な場面のひとつといえば、「心臓を盗む」シーンだろう。これはハンター試験の3次試験で、キルアが凶悪犯罪者・ジョネスを殺した後のセリフだ。ジョネスはこれまで146人以上を殺害し、968年の懲役刑に処されている。恐ろしいほどの力を持ち、素手で人間を「分解」するというとんでもない殺人犯である。
キルアはこの男と1対1の殺し合いをすることになるが、その戦いは一瞬で終わる。すれ違いざまにキルアはジョネスの心臓を「盗む」のだった。この「盗む」という表現が、多くのファンの心を掴み、キルアの代名詞的なシーンとなった。
あまりにも一瞬の出来事であるために、心臓を抜かれてからのジョネスが、キルアに向かって「か… 返…」としばらく生きていた姿も恐ろしい。
その殺しのスキルに驚くゴンたちに対して、「オヤジはもっとうまく盗む ぬきとる時 相手の傷口から血が出ないからね」と平然と話す。こちらのセリフも少年少女の心に突き刺さり、極めて有名なものとなった。
ネットミームとしては、何かをほめられた時に「オヤジはもっとうまく盗む」と返すというのが一般的な使い方のようだ。照れ隠しとしても使えるし、コミカルな返しとしても使える汎用性の高いネットミームである。
■「感謝の正拳突き」
ハンター協会の12代目会長であるアイザック=ネテロの「感謝の正拳突き」も、高い人気を誇るネットミームのひとつだ。ネテロはいまでは好々爺だが、若いころは常軌を逸したトレーニングを積んでいた。高齢になり、全盛期のコンディションと比べると衰えたネテロ。彼の最期の戦いは、キメラ=アントの王・メルエムとのものだった。その戦いの少し前、ネフェルピトーと交戦している時に、ネテロの過去が明かされる。
彼は46歳の時、武術をさらに極めるため、一日一万回の正拳突きをすると決めた。これには武術への感謝という意味も込められていた。気を整え、拝み、祈り、構えて、正拳を放つ。この一連の動作をひたすら続けるうち、いつの間にかネテロの拳は音速を超えていた。
これこそが「感謝の正拳突き」だ。同じように「音を 置き去りにした」という表現もネットミームとして使用される。人智を超えた能力を手に入れ、ピトーでもまったく反応できないほどの超スピードで正拳を放つネテロは、作中でも人気のキャラクターとなった。
ネット上では実際に「感謝の正拳突き」を一万回実践する人が出てきたり、パロディとしてギャグマンガなどに登場したりする。作中では比較的新しい部類に入るセリフなので、これからもっと使われる機会が増えるかもしれない。
ネットミームはその元ネタを知らない人でも使っていたり、聞き覚えがあったりすることも多い。「たしか元ネタはあの作品だったっけ」程度の認識の人も、中にはいるだろう。
ネットミームの元ネタを知識として知っておくと、そのネタをより楽しむことができる。『HUNTER×HUNTER』のファンはかなり多いため、これらの元ネタを知っていれば、漫画ファンとの会話をさらに面白いものにできるだろう。