■一人の少年が憎んだのは彼を振り回す大人たちのエゴ…「密室の少年」
時には思いもよらぬ超常現象にも立ち向かうこととなるブラック・ジャックだが、彼が常人離れした特殊な力を持つ患者と出会うのが「密室の少年」なるエピソードである。
今回の患者は、事故によって両手足が麻痺してしまった少年だ。彼は事故の影響からサイコキネシスを使えるようになり、近付こうとする大人を超能力で追い返していた。
ブラック・ジャックはそんな少年に体当たりで接し、だんだんと心を解きほぐしていく。その甲斐あってようやく手術を決心した少年だったが、その超能力は手術が成功したらなくなってしまうものであった。
それを阻止しようとした科学者・物野毛は少年の母親を説得。手術を中止させようとし、ブラック・ジャックが無免許医だと告げ口するのである。
だが、ブラック・ジャックを否定されたことで、“あの人はいい人だ”と少年は激怒。超能力を暴走させて周囲の人間を襲い、パニックに陥れてしまう。
その結果、警官に撃たれてしまう少年……。ブラック・ジャックはそれでも少年を手術しようとするのだが、なんと少年の母はブラック・ジャックが無免許医であることを理由に手術を断ってしまうのだ。
一時は心を開きかけた少年だったが、彼は終始、周囲に群がる大人たちのエゴに振り回され、唯一心を通わせたブラック・ジャックとも隔離されてしまった。
数々の難問に立ち向かってきたブラック・ジャックだが、今回のエピソードでは手術すら許されず、医師としてただただ報われない結果になってしまった。
打ちのめされたブラック・ジャックの痛々しい姿、身勝手な思想で行動する大人たちの醜悪さなど、仄暗い展開の数々に思わず目を背けてしまいたくなる強烈なエピソードであった。
外科医としての卓越した手腕で多くの患者を救うブラック・ジャックだが、必ずしも彼の活躍が報われるとは限らない。不慮の事故、時の流れ、大人たちのエゴ……など、さまざまな要因が彼の行く手を阻み、その心を打ちのめすこともある。
今回紹介したような後味の悪いエピソードの数々は、人間の命と向き合うことが決して綺麗事ばかりなのではないという非情さを容赦なくリアルに伝えていた。