
選抜高等学校野球大会を控え、プロ野球もオープン戦が始まり、全国的に野球シーズンが盛り上がってきた今日この頃。野球少年だった筆者にとってはもっとも楽しい季節で、ワクワクしている。
さて、野球シーズンになると高校野球の漫画やアニメを振り返りたくなるもの。多くの名シーン、名キャラたちが頭をよぎるが、なかでも「魔球」は魅力的で憧れた。野球漫画に魔球はつきものだが、野球をやっていた立場からすれば、完全に現実ではありえないような魔球よりも、ちょっとリアリティがあって「もしかしたら投げれるのかも?」と思わせてくれる魔球に、強くひかれたものだった。
そこで、昭和末期から平成初頭にかけて、筆者が少年時代に熱中したちょっと懐かしい野球漫画から「ありえそうでありえない魔球」の数々を振り返っていきたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■小刻みにパーセントで地力を見せつける『名門!第三野球部』桑本聡の「三階カーブ」
1987年から『週刊少年マガジン』(講談社)で連載されたのが、むつ利之氏の『名門!第三野球部』だ。
いじめられっ子の主人公・檜あすなろは高校野球の名門・桜高校野球部の三軍(以下・第三野球部)に所属し、退部をかけて一軍と2度の死闘を経て見事勝利する。ここから数々のライバルチームを倒して念願の甲子園出場を決め、全国準優勝の快挙を成し遂げるという感動の野球漫画である。
そんなあすなろに立ちはだかったのが、終生のライバルとなる銚子工業野球部のエース・桑本聡だ。
初登場となった練習試合では、2回途中からマウンドに上がった桑本。1年生なのに“三軍相手には投げたくない”と監督に盾ついてみたり、打席に入る前に第三野球部のマネージャー・村下夕子を口説きにかかるなど、全くもって困ったヤツだった。しかも1カ月ほど風呂に入っていない……。
そんな桑本だが、エースを張るだけあり、とんでもない投球をみせる。190センチを超える長身で左ピッチャーの桑本の決め球は、大きく縦に曲がるカーブだ。実在する変化球とはいえ、桑本の切れ味鋭いカーブは「三階カーブ」と言われるほど。グイッと思い切り曲がって落ちてくるこのカーブはまさに魔球……打てるわけない。
しかも、桑本は「ただ今50%!」と今の投球をパーセントで表現し、全力を出さずに第三野球部から三振の山を築いていく。50%の段階で小西カズオは「三階どころか屋上から落ちてくる感じだぜ ありゃ……」と、あっけにとられるほど凄まじかった。“全力になったらどうなるんだろう”と、ライバルチームながらワクワクさせられたものだ。
桑本はその後、あすなろをライバルとして認め、血の滲むような努力を重ねて鋼の肉体を作り、今度は150キロを超える剛速球を身につける。最高にカッコいい印象的なプレイヤーだった。
■揺れる剛速球! 相手を殺す気で投げる『なんと孫六』甲斐孫六の「孫六ボール」
1981年から『月刊少年マガジン』(講談社)で連載されたのが、さだやす圭氏の『なんと孫六』だ。
野球部顧問の辰巳に“毎日食堂でステーキを食べさせる”ことを約束させ、浪城高校に入学した主人公・甲斐孫六。類いまれなる野球センスを持っているものの、浪城高校はとんでもない不良たちが揃っており、最初は喧嘩漫画かと思うほど争いのシーンが多かった。
孫六は投手としてだけでなく打者としても超一流であり、高校野球から国内プロ野球、そしてメジャーリーガーと投打で大活躍を見せていく。
そんな彼の魔球といえば「孫六ボール」だ。激しく揺れ動く剛速球で、いわゆる“ムービングファストボール”である。捕球できる捕手がチーム内に限られているほど癖のある魔球で、浪城高校ではバッテリーを組んでいる永淵強しか取ることができない。
この「孫六ボール」だが、タイミングが合えば試合の序盤から中盤で強打されてしまうことも珍しくない。しかし、試合終盤などここ一番という時になると、リベンジに燃えた孫六が「死にさらせー!」と、思い切りど真ん中に放り投げるのだ。握り締めたボールからは湯気が立ちのぼっており、威力もハンパなく、時に打者が骨折するほどであった。
相手打者からすると、ムービングが自分に当たりそうなほどに大きく見える魔球であり、殺す気で投げているかのような孫六も威圧感たっぷりだった。たまにスローボールも投げるが、基本真っ直ぐに強打者たちに立ち向かう孫六は凄まじかった。