
板垣恵介氏による『刃牙』シリーズは、累計発行部数が1億部超と、数ある格闘漫画の中でも異例のヒット作品といえる。
人気の理由には、個性的なキャラや見たこともない技、規格外の筋肉などが挙げられるだろう。また、数多くのキャラがいろいろな場所でバトルを展開するのも見どころのひとつだ。
そうしたバトルの中では、勝つと思われたキャラがあっさりと負けたり、負けそうなキャラが大番狂わせで勝ったりと、予想を裏切られる場面も少なくない。特に印象的なのが、強そうだったのにあっさりやられてしまうキャラの活躍だ。
そこで今回は、『刃牙』シリーズで、驚くほど華麗な負けっぷりをしたキャラを振り返っていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■推薦者の勇次郎に倒されてしまった天内悠
『刃牙』シリーズ最高の噛ませ犬の元祖とでも言うべき存在が、天内悠だ。天内は地下闘技場最大トーナメントで、範馬勇次郎が推薦したファイターである。
アメリカ大統領の元ボディガードという特異な経歴を持つ上、あの勇次郎がおスミ付きだと話す実力はどれほどのものか……。非常に脚力が強いようで、皆の前で技を披露しようと飛び上がろうとしただけで床がえぐれてしまうなど、前情報だけで期待は十分だ。
やがて天内は愚地独歩と対戦することになり、そこで彼の本気が見られる……そう思ってワクワクさせられた。
試合が始まると、天内は独歩に追い詰められながらも、反撃して寝技に持ち込む。そして、足を破壊しただけで決着がついたと勝手に判断するも、独歩のほうはやる気十分で試合を続けようとした。
ここで天内は、「この闘いはもう意味を持たない」「観客の皆さん (自身の勝利・独歩の敗北を)認めて下さいッ」などと言って、試合を止めさせるよう徳川光成や観客に訴え始める。すると次の瞬間、突如として勇次郎が天内に向かって手刀を炸裂。そこから髪の毛を掴み、「消えうせいッッ」と投げ飛ばすという驚きの行動に出た。
これには観客も読者も絶句。何が起こったのか理解できなかった。勇次郎は天内が甘ったるい思想で闘争を汚したのに対し、「上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想!!!」と激怒したのだ。
まさか自分で紹介しておいて、自分で壊すとは……。一時は独歩を追い詰めるほどの実力を見せただけに、あっさり退場してしまったのが残念だ。
これほどの負け方は、後にも先にもないのではないだろうか。天内がトーナメントに参加した意味は一体何だったのか、とまで思ってしまう。
■周囲の期待を見事に裏切ったマホメド・アライJr.
続いては、父親が伝説のボクサーであるマホメド・アライJr.。彼は父が目指したオリジナルのファイティングスタイル「マホメド・アライ流拳法」を生み出した、すぐれたボクサーである。
通常のボクサーと違いあらゆる格闘技に対応する術を持っていて、渋川剛気や独歩といった強者をストリートファイトで倒す活躍も見せた。しかし、アライJr.は試合しかしたことがないため、本気の殺し合いの経験がない。
そのため、渋川や独歩が殺す気で再戦を挑むと、両拳と膝を破壊されて惨敗。プライドをずたずたにされてしまう。
ここでようやくアライJr.は、自身に力や覚悟が足りなかったことを自覚する。そして負け続けた経験を糧に範馬刃牙との闘いに挑むのだ。これには、渋川たちも「まさに試合のさ中にッッ」「アライJr.が完成するッ」と期待を見せている。
しかし実際に試合が始まると、刃牙はアライJr.を圧倒。強烈な一撃でダウンさせた後、立ち上がって反撃に出ようとした彼の金的を容赦なく蹴り上げた。しかも続けざまに顔面を踏みつけ、首を締め上げ続けて殺そうとする。とっさにアライJr.の父親が割り込んで止めたが、それがなければ、刃牙はアライJr.を殺していただろう。
刃牙は「殺ラレズニ殺ル」というアライJr.の言葉に覚悟の無さを感じていた。命を差し出す覚悟を持たずに相手の命を奪おうとする、それでは殺られて当然というのである。
あまりにもあっさりと決着がついてしまった上に、渋川たちの予想は大外れだった。事前に描かれた周りの期待が大きかっただけに、かませ犬感がスゴい。