■第49巻「僕は ついてゆけるだろうか 君のいない世界のスピードに」

 第49巻は長きにわたった藍染との戦いが終わり、一護が死神の力をなくした「死神代行消失篇」の始まりが収録されている。「君のいない世界」というのは、死神としての一護がいなくなった世界を指しているととれる。

 さらに一護の視点から見れば、死神や虚とのかかわりが無くなった世界とも受け取れる。特に、朽木ルキアのいない世界を表していると解釈するファンも多い。ファン目線と一護目線という二重の意味が隠された詩といえるかもしれない。

 「死神代行消失篇」では、一護が死神の力を取り戻すために奮闘し、再び「空座町の死神代行」になるまでの再生の物語が描かれた。ユウレイが見えない世界という「望んでいた世界」を手に入れたにもかかわらず、自分が取り残されたように感じる一護の心情も表しているような詩となっていた。

■第61巻「私が 世界には危険が満ちていると信じ その危険からお前を護りたいと願うのは 私の中にその危険と同質の 衝動があるからに ほかならない」

 「斬月のおっさん」の正体がついに明かされた61巻。彼は一護の中にある滅却師(クインシー)の力の根源が具象化した姿であるために、ユーハバッハとルーツは同じだが人格が異なっている。しかし、死神に対しては否定的だ。そんな想いを抱えながら常に一護に力を貸し、そばで成長を見守り続けていたと明かす。

 斬月のおっさんの独白のような詩となっていて、一護を想う気持ちや滅却師と死神の先を憂慮する想いが表現されている。一護を護りながらも、彼が「死神」であり続ければいずれは殺し合いになってしまうと悩む、斬月のおっさんの葛藤が伝わってきた。

■第74巻「我等は 姿無くとも 歩みは止めず」

 最終巻である74巻には、第1巻と対となるような詩が掲載されている。まさに死神たちの物語の終わりにふさわしい。こちらの「我等」は「虚や死神が見えない人たち」ではなく、一護たち死神のことを指しているのだろう。

 最終話ではユーハバッハとの最終決戦から数年後の物語が描かれ、次の世代の死神の物語につながっている。

 またこの詩は、『BLEACH』の世界は歩みを止めることはないというメッセージにも受け取れる。実際、74巻刊行の後には『BLEACH』とのつながりを思わせる『BURN THE WITCH』や読み切り作品『BLEACH 獄頤鳴鳴篇』などが発表されていて、まさに「歩みは止めず」という言葉通りの展開となっている。

 

 ストーリー性の高さだけでなく、あらゆる点で作者のセンスが発揮されている『BLEACH』。その巻頭ポエムは巻ごとのテーマ性を表していたり、時には伏線にもなっていたりもする。ファンによってさまざまな解釈が生まれるのもおもしろいポイントだ。

 単なる詩として読み流すのではなく、その意味まで考察すると『BLEACH』の世界観をさらに深く理解できるはずだ。

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