『BLEACH』読者をしびれさせた「巻頭ポエム」の数々「君が明日 蛇となり…」「君のいない世界のスピードに…」の画像
『BLEACH 千年血戦篇』(C)久保帯人/集英社・テレビ東京・dentsud・ぴえろ

 久保帯人氏が描くダークファンタジー『BLEACH』。その大きな魅力はとにかく、読者をしびれさせるセンスだ。オシャレな描写に技名、セリフ、キャラデザイン……など、すべての要素に作者のセンスが散りばめられている。その中でも際立つのが、俗に「巻頭ポエム」とも呼ばれる、コミックスに掲載されている詩である。

 最近では本作の熱狂的ファンとして知られる『呪術廻戦』の作者・芥見下々氏が「巻頭歌」と呼んだことで、この呼称も使われるようになった。

 今回はそんな読者をしびれさせた詩の数々を、厳選して紹介していこう。

 

※本記事には『BLEACH』の内容を含みます

■第1巻「我等は 姿無きが故に それを畏れ」

 記念すべき第1巻の巻頭ポエムであるこちらは、作品のテーマ性にも通じている。「姿無き」という単語は虚(ホロウ)と死神の両方を指しているようにとれる。主人公の黒崎一護はユウレイが見えるために彼らを恐れることはないが、一般にはどちらも恐れられている存在だ。

 それがある日突然、単なるユウレイとは一線を画す虚や死神という存在を知る。そして、自身も死神になることで、一護もまた普通の人には見えない「姿無きもの」になるのだ。 

 詩の中で「恐れ」ではなく、「畏れ」という畏敬の念を込めた意味合いが強い言葉が使われているのにもセンスを感じる。これから「姿無きもの」の物語が始まるという、第1巻にふさわしい詩だった。

■第40巻「心在るが故に妬み 心在るが故に喰らい 心在るが故に奪い 心在るが故に傲り 心在るが故に惰り 心在るが故に怒り 心在るが故に お前のすべてを欲する」

 40巻の巻頭ポエムは作中屈指の人気を誇るウルキオラ・シファーの心情を表したような詩となっている。ウルキオラは「心」というモノに興味を持ち、それを追求した変わり者ともいえる破面(アランカル)だった。ヒロインの井上織姫の行動を観察し、心とは何かと考え続ける……。

 41巻でウルキオラは、一護の中にある虚の力に圧倒されて跡形もなく消滅してしまう。死に際、織姫に「…俺が怖いか 女」と聞き、「こわくないよ」と応じられるやりとりはまさに名シーンだ。

 「これが そうか」「この掌にあるものが」「心か」と、「心」を理解しながら消滅していったウルキオラ。一護との戦い、織姫との関係性を経て、変わっていく姿に美しさすら感じる。ウルキオラの心に対するこだわりが、「心在るが故」という反復で表現されているのが味わい深い。

■第47巻「君が明日 蛇となり 人を喰らい 始めるとして 人を喰らった その口で 僕を愛すと 咆えたとして 僕は果して 今日と同じに 君を愛すと 言えるだろうか」

 この詩が掲載されている47巻の表紙は市丸ギンだ。彼は幼なじみの松本乱菊を傷つけたグループの親玉・藍染惣右介の企みにいち早く気づき、誰にも真意を告げることなく彼の懐に入り込んだ。その結果、反逆者として危険視されたが、すべては乱菊を護るため、彼女を傷つけた者を倒すためだった。

 「蛇」と例えられることも多いギンだが、その思慮深さと優しさは作中でもトップクラスだ。「僕」と「君」は一体誰を指すのか。誰を当てはめるかで、意味が変わって見えてくる複雑な思いが表現されているようだ。

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