■安西先生が谷沢に語りかけるシーン

 山王戦では、安西先生の活躍シーンも多かった。だが、映画では、原作において重要であった安西先生と関係が深い谷沢龍二に関するシーンがすべてカットされている。この谷沢とは安西先生が名門大学で監督を務めていた時代に目をかけていた天才プレイヤーであり、安西先生の方針に嫌気がさし、アメリカへ留学した選手だ。

 結局、彼はアメリカで指導者に恵まれず、その才能を活かしきれなかった。すでに死亡しており、安西先生の心に深い傷を残している。

 山王戦では花道、流川楓の才能が開花。花道は驚異の身体能力で試合をかき乱し、流川は山王のエース・沢北栄治と渡り合うほどの活躍で流れを完全に変えた。

 この2人を見て、安西先生は「見てるか谷沢……」「お前を超える逸材がここにいるのだ……!!」と心のうちで語り、「それも……」「2人も同時にだ………」と呟きながら1年生コンビを見つめるのだ。谷沢への罪悪感からようやく回復していく安西先生に心打たれる名シーンである。

■仙道の登場シーン

 作中屈指の人気キャラである陵南・仙道彰の登場シーンがカットされたことを残念がる声も多い。

 山王戦での仙道の登場シーンは、流川の回想の中で出てくる。流川は全国大会の前に仙道に1on1を挑み、「全国には…… おめーより上がいるのか?」と聞いていた。仙道はその問いに対し、中学の時に一度だけ戦い、勝てなかった男がいたと伝える。

 「北沢」と仙道が告げたその名前を、流川はしっかりと記憶した。しかし、のちに彼が名前を間違えていたと発覚するのだ。それに気付いた流川は、思わず試合中に心の中で「北沢?」「沢北じゃねーか…どあほう!!」とツッコむ。

 作中屈指の人気キャラである流川と仙道の1on1の描写はファンとしては嬉しく、仙道らしいミスも含めていろいろと微笑ましい場面だった。あの仙道が勝てなかったと言及していることで、沢北が本当に作中ナンバー1プレイヤーなのだとリアルに伝わってきたシーンでもある。

 

 宮城の過去と成長が大きなテーマのひとつになっている『THE FIRST SLAM DUNK』。原作の名シーンがカットされているのにはファンとしては残念な気持ちもあるが、映画は映画としてまた一味違った素晴らしい作品となっている。原作漫画と映画、それぞれを改めて見返してみるのも面白いかもしれない。

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