■有名BGM使用の妙『彼氏彼女の事情』

 庵野監督は、劇中での音楽選びにも独自のこだわりを持つ。

 『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)の次に手がけたテレビアニメ『彼氏彼女の事情』(1998年)。原作は津田雅美さんの人気少女漫画で、庵野監督にとっては初の原作漫画付きの作品であったが、そのオマージュ精神は健在だった。

 冒頭の“あらすじ紹介”では、なんと『鉄人28号』のBGM『進め正太郎』が流れる。さらに25話では『帰ってきたウルトラマン』のBGM、最終回の26話では『宇宙戦艦ヤマト』の『乗組員の行進~ヤマト発進 Oー1』が使用されていた。

 いずれも名作アニメや特撮の象徴的な楽曲であるが、本作で織りなされる高校生たちの青春ドラマとのギャップが生まれ、視聴者に強い印象を残す演出となっている。

 また、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では『彼氏彼女の事情』のBGMがセルフオマージュとして使用され、庵野作品同士のつながりを感じさせる仕掛けとなっている。

 

 こう見てみると、庵野秀明監督の作品には、過去の名作たちのオマージュ演出が随所に散りばめられていることが分かる。

 作品に込められた「やりすぎ」とも言えるオマージュの数々……だが、決して単なる模倣ではなく、先人たちの作品へのリスペクト、そしてなにより、その作品への愛が伝わってくるものだ。だからこそ、観る者を深く感動させるのだろう。

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