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庵野秀明監督は、特撮やアニメへの深い愛情で知られ、その情熱はキャリア初期から一貫している。1981年から1985年にかけて活動した「DAICON FILM」時代には、『DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』を自主制作。自ら総監督を務め、さらに主演までこなし、『ウルトラマン』への熱い想いを見せた。
特撮やアニメを愛するがゆえ、その後の監督作品にも徹底したオマージュ演出が数多く取り入れられている庵野作品。
本記事では、そんな庵野監督の「やりすぎ」とも言えるオマージュ演出をピックアップ。作品へのリスペクトとこだわりが詰まった、名シーンの数々を振り返っていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■ヤマト発進を完全再現『ふしぎの海のナディア』
庵野監督が『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)から大きな影響を受けていることは、広く知られている。その影響が色濃く表れているのが『ふしぎの海のナディア』第36話「万能戦艦Nーノーチラス号」だ。
この回に登場するNーノーチラス号の発進シーンは、『宇宙戦艦ヤマト』第2話「号砲一発!! 宇宙戦艦ヤマト始動」のヤマト発進シーンを細部まで忠実に再現。完全なるオマージュのシーンとなっている。
敵空中戦艦の出現により絶体絶命の状況に追い込まれるなか、地中に埋まった幻の戦艦を起動させて反撃に転じるという展開もそのまま。さらには、エレベータを使い艦内に導かれる主人公たち、彼らを待ち受ける艦長、発光する機器類、さらにはセリフやカメラアングル、カット割りのタイミングに至るまで、ほぼヤマト発進シーンと同じだ。オリジナルである『ヤマト』への深いリスペクトが感じられる。
極めつけは、Nーノーチラス号の主砲発射シーンだろう。「傾斜復元 船体起こせ!」の号令とともに瓦礫を崩しながら戦艦が起動し、主砲を発射。螺旋状のビームが直上の敵空中戦艦を貫通殲滅するシーンも、『ヤマト』そのものだ。
その際、使用された発射音は『ヤマト』のショックカノンの音を、許可を得た上で使用するという徹底ぶり。ちなみに、この演出はのちの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』に登場する空中戦艦AAAヴンダーにも受け継がれている。
現在、庵野監督の『スタジオカラー』は『宇宙戦艦ヤマト』をベースとした新作アニメ『シン・ヤマト(仮)』を制作中だ。どのような作品になるのか期待が高まる。
■戦争映画の名作を強く意識『トップをねらえ!』
庵野監督のアニメ初監督作品『トップをねらえ!』(1988年)は、そのタイトルからも分かるように『トップガン』と『エースをねらえ!』の要素を組み合わせた作品だ。しかしその根底には、昭和を代表する名監督・岡本喜八さんへの深い敬意が込められていた。
庵野監督は『アニメージュ』1997年1月号で、“僕が生涯いちばん何度も観た映画”として岡本監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971年)を挙げているが、その視聴回数はなんと100回以上だという。
その岡本監督の演出をオマージュとして取り入れたのが『トップをねらえ!』だった。司令部の緊迫感と戦いのテンポ、被害艦艇数のテロップ表示などは『沖縄決戦』を強く意識したものだったという。
なかでも5話「お願い!!愛に時間を!」にて、宇宙軍情報部に緊急でかかってきた「敵の数が多すぎて宇宙が黒く見えない 敵が七分で黒が三分 いいか 敵が七分に黒が三分だ!」というセリフは、『沖縄決戦』の名セリフ「船が七分に海が三分 分かったか 船が七分に海が三分だ!」のオマージュになっている。
沖縄・嘉手納に迫る米艦隊の圧倒的な恐怖を表現した『沖縄決戦』のセリフが、『トップをねらえ!』で地球に迫る宇宙怪獣の絶望的な状況に見事に重ねられていた。