
初代『機動戦士ガンダム』に登場する「カムラン・ブルーム」は、フラれ男として多くの視聴者に記憶されているだろう。彼は婚約者であるミライ・ヤシマの心をつなぎ止められず、最終的にはフラれてしまうあわれな男だ。しかし、今になって改めてその行動を改めて振り返ると、評価は大きく変わる。
彼が登場した時点でのミライは、スレッガー・ロウとブライト・ノアという2人の男の間で揺れ動いており、カムランは子どもたちから見ても不釣り合いな男として映ったに違いない。しかし、『機動戦士ガンダム』では愛するミライのために動き、そして映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では大きな決断までしてみせる。カムランは本当に「あわれな男」だったのか? その功績を再評価してみたい。
※本記事は作品の内容を含みます。
■ミライ・ヤシマのかつての婚約者、カムラン・ブルームとは?
カムラン・ブルームは、一年戦争時に中立を表明していたスペースコロニー・サイド6の監察官だ。
『ガンダム』第33話「コンスコン強襲」で、先の戦闘で大ダメージを負ったホワイトベースは、修理と補給を行うためサイド6の領空に入る。そして、いっさいの戦争行為を禁じるサイド6において、ホワイトベースの武器の封印を担当したのがカムランだった。
メガネをかけスーツを着た、いかにもお役人といった弱々しい容姿の彼は、実はミライの婚約者でもあった。ミライは移民先のサイド7がジオンの襲撃を受けたことでホワイトベースに避難し、操舵手を務めるようになった経緯を持つ。そうして離れ離れになったのだが、ホワイトベースで再会した2人の状況は大きく違っていた。
ミライはここまで極限状態の戦いを続けてきた。一方のカムランが暮らすサイド6は、ネオンきらびやかな人工都市であり、街では若い男女がデートを重ねる様子も描かれている。過酷な戦争に巻き込まれたミライと、カムランはまるで違う生活を送っているのだ。
■愛するミライのため、無事を祈るのみ
そんな中、ホワイトベースはサイド6内での修理が許可されず、領域外の“浮きドック”で修理を行うことになる。しかし、その動きを察知したジオン軍のコンスコン機動部隊が襲来し、戦闘が勃発。カムランはパトロール船で間近でこの戦闘を目撃し、「このままではまずい」「あの連邦軍の船には、私の未来の妻が乗り込んでいるんだ」と戦闘域まで船を突っ込ませる。
操縦士から「こんな危険を冒してまで戦いを止めさせるのは御免ですよ!」と反発を受けている様子からも、このときのカムランはかなり無茶な行動をしているのだろう。
それも全ては、今でもミライへの思いが変わらないゆえ。しかし、一方の彼女の気持ちは違った。カムランが、「必死で探させた、いくら費用がかかったか知れないぐらいだ」と消息をたった彼女を探し続けていたと説明しても、ミライは「なぜご自分で捜してはくださらなかったの?」と冷たい反応を示すばかり。
またカムランが、「父の力を借りれば君をサイド6に住めるようにしてやれるから」「父に頼んでやるってさっきから僕は……」と生活をやり直すことを提案しても、ミライは「ホワイトベースは捨てられないわ」と涙を流し拒否。今のミライには、ホワイトベースを降りるという選択はとれないのだった。
そうして2人は別れることになるが、ホワイトベースがサイド6を離れる際に、カムランは自家用艇で先導し領域ギリギリまで盾となることを申し出る。それも全ては愛するミライのため。
カムランはジオン艦隊と大量のリック・ドムに囲まれたホワイトベースを領域ギリギリまで見送り、戦闘が開始されたことを見届け、「はじまった……はじまって……しまった……ミライ……」と涙を流すのだった。
愛する人が戦争に巻き込まれるのを止めることができない。子どものときには分からなかったが、大人になった今改めて見ると、カムランの思いは耐えられないほど辛いものだ。