■大切な人を守るための行動に涙…「殺意はコーヒーの香り」
「殺意はコーヒーの香り」はコミックス第60巻に収録されているエピソードで、やるせない結末でも知られている。ある番組への出演依頼を受け、番組制作会社の社長・染井彰吾とともに、プロデューサーの中目頼策の自宅を訪れた小五郎たち。そこでは中目が死亡しており、コナンは早々に染井が犯人であると推理した。
しかし、現場の状況からこの殺人が不可能犯罪であることに気が付き、やがて悲しい真実にたどり着いてしまう。
中目の部屋は玄関に鍵とチェーンがかかっていて、室内には毒殺された中目だけが残されていた。窓からベランダには出られるものの、部屋はマンションの20階だったために脱出は不可能。コナンはこの事実からある結論を導き出す。犯人は中目を毒殺し、ベランダから飛び降りて自殺。その遺体を染井が隠したという驚きの真相だった。
真犯人は染井のもとで働いていた久住舞子。動機には中目から圧力をかけられ、染井が日に日にやつれていったことがかかわっていた。染井に想いを寄せていた舞子は彼を守るため、中目を殺さなければと考えて犯行に至ったのだ。
彼女はマンションから飛び降りる前に染井に電話をかけ、身を投げた。染井は中目のマンションで小五郎たちと合流する前に舞子の遺体を発見。土砂降りの雨の中、彼女の遺体を車のトランクに隠すというつらすぎる行動を取っていたのだった。ケーキやコーヒーカップを使ったトリックで彼女の名誉を守ろうとした行動は、どんな気持ちでやっていたのかと悲しくなってしまう。
『名探偵コナン』には時に犯人に同情してしまう事件があり、その複雑なドラマに心打たれる。そうした人間心理の描かれ方にも注目してみると、本作が子どもはもちろん大人にも愛される理由がわかるだろう。