『名探偵コナン』あまりにやるせない… 「鳥取クモ屋敷の怪」に「そして人魚はいなくなった」思わず犯人に同情した「切なすぎる事件」3選の画像
少年サンデーコミックス『名探偵コナン』第105巻(小学館)

 劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』の情報が公開され、今年も大きな話題を呼んでいる『名探偵コナン』。本作ではこれまで数々の事件が描かれてきたが、その中には思わず犯人に同情してしまうほどの切なすぎるものもある。

 単純な動機ではなく、小さなすれ違いや周りの人たちの悪意によって犯罪に手を染めてしまう複雑な背景が巧みに描かれているのも、本作の魅力だ。そこでこの記事では『名探偵コナン』の「切なすぎる事件」を3つ紹介していこう。

※本記事には『名探偵コナン』の内容を含みます

■小さなすれ違いが大きな悲劇を生んだ「鳥取クモ屋敷の怪」

 まず紹介するのは、コミックス第25巻に収録されている「鳥取クモ屋敷の怪」。鳥取県の武田家から依頼を受けた毛利小五郎は、江戸川コナン・毛利蘭とともにそこへ向かっていた。その道中で服部平次、遠山和葉と遭遇し、彼らも別口で招かれていたと知る。

 「絡繰峠の蜘蛛屋敷」と呼ばれるその屋敷には人形作りを生業とした一家が住んでおり、3年前に美沙という娘が自ら命を絶ったことが影を落としていた。

 コナンたちの他にも、美沙と親しかったという米国人カメラマンのロバート・テイラーも来ており、その夜、屋敷には多くの人が滞在する事になる。そんな中、美沙の父親で武田家当主の信一が殺害され、コナンと平次は真相の解明に乗り出した。

 彼らがたどり着いた真相は、ロバートが美沙の復讐のために信一を殺したというものだった。

 その動機には美沙の秘密が隠されていた。実は彼女は信一の実の娘ではなく、その弟の龍二と信一の妻との間にできた娘だった。後にその事実を知らされた信一がつらく当たり続けたせいで美沙は自殺してしまったとロバートは推測し、殺害を計画したのだ。 

 しかし、真相は違うと平次とコナンは推理する。3年前、美沙は故郷に帰るロバートからあるメッセージを受け取った。英語ができない美沙と日本語が読めないロバートは、ローマ字で意思疎通していたのだが、それが大きな誤解を生む事になる。

 ロバートは思いを寄せる美沙に「Shine(光のような人)」という言葉を書いて渡した。しかし、当時精神的に弱っていた美沙はこれを日本語で「Shine(死ね)」と受け取ってしまったのだった。ミサを追い詰めたのはほかでもない自分自身だったかもしれない、という事実を突きつけられ、ロバートは呆然としてしまう。

 その後、パトカーの中で「何で自分は日本人じゃなかったんだ…」「何で彼女はアメリカ人じゃなかったんだ」と壊れた人形のようにつぶやき続けるロバート。ほんの些細なすれ違い、言葉の違いが大きな悲劇を生んでしまうという、あまりにもやるせない結末だった。

■平次ですら真実に動揺した「そして人魚はいなくなった」

 「そして人魚はいなくなった」はコミックス第28巻に収録されている長編エピソードだ。

 「人魚の棲む島」と呼ばれる美國島を訪れたコナンと平次、蘭、和葉、小五郎の五人。そこでは年に一度の「儒艮(ジュゴン)祭り」がおこなわれており、参加者はくじ引きによって不老不死のお守りである「儒艮の矢」がもらえる。

 そこでは、130歳の女性・命様(みことさま)が不老不死の伝説に説得力を持たせていた。やがて連続殺人事件が起こり、その犯人が命様の曾孫である島袋君恵であることが判明する。その動機と命様に関する真相が何とも不憫だ。

 実は命様は君恵が特殊メイクによって変装した姿であり、彼女の母親もかつて命様を演じ続けていた。つまり、本物の命様が寿命をまっとうしてからは母親が、母の死後には君恵が命様を演じていたのだった。

 これは美國島の伝統を守るためであり、実際に「儒艮祭り」に大きな説得力を持たせていた。犯行の動機も命様絡みだ。殺された海老原寿美、黒江奈緒子、門脇沙織は酔っ払った勢いで、君恵の母親が変装していた命様がいる蔵に火をつけてしまう。本当に不老不死か試そうとしたという浅はかな悪ふざけだった。

 当然、君恵の母親は死亡してしまい、君恵が後を継いで命様を演じていくことになった。やがて母親の死の真相を知った君恵は、3人の殺害を決意したのである。

 母親の遺言を守ってたった一人で秘密を隠し通してきた君恵だったが、ここでさらに衝撃の事実が明らかになる。実は島の人間は若い者を除いた全員が命様の真実を知っていた。島の伝統のためを思う彼女の献身的な姿を見て、それを言い出せずにいたと彼らは明かす。

 伝統を守るために母親の死の真相すら隠し続ける人生を歩んできた君恵。蘭や和葉とも親交を深めていただけに、彼女が犯人だとわかった時には平次ですらも大きな動揺を見せたほどだ。そんな彼にコナンは、「不可能なものを除外していって残った物が…たとえどんなに信じられなくても…それが真相なんだ!!」と探偵としての覚悟を伝える。

 島の伝統に振り回され、酔った親友たちに悪ノリで母親を殺されるという残酷すぎる人生には、切なさを感じるとともに同情してしまう。

  1. 1
  2. 2
  3. 3