大島弓子『夏の夜の獏』に今市子『僕は旅をする』…『世にも奇妙な物語』ベテラン少女漫画家の傑作短編が実写化された名作回の画像
『世にも奇妙な物語』(C)フジテレビ

 ホラー、サスペンス、ファンタジーなど、さまざまな奇怪なエピソードを集め、オムニバス形式で楽しむことができるドラマ『世にも奇妙な物語』。

 1990年に放送がはじまり、今もなお新たな作品が生み出されている大人気シリーズである本作だが、なかには大物少女漫画家たちが手がけた短編が原作となったエピソードがあることをご存じだろうか。

 今回は、少女漫画家たちの巧妙なシナリオ構成が光る『世にも奇妙な物語』の名作回について見ていこう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■世のなかは子どもみたいな大人ばかり?『バカばっかりだ!』大島弓子

 1968年に『週刊マーガレット』(現:『マーガレット』集英社)で掲載された『ポーラの涙』でデビューをはたし、以降も『綿の国星』、『バナナブレッドのプディング』など数々の名作を世に送り出した大島弓子さん。

 1970年代の少女漫画界を支え発展させた「24年組」の一人としても有名だが、そんな大島さんの短編『夏の夜の獏』をモデルに構成されたのが、1991年に放送された『バカばっかりだ!』だ。

 主人公は一人の小学生男子。まわりの子どもに比べかなり早熟な彼は、ある朝起きると突如、自身の姿が青年の姿に変化していることに驚愕する。実は彼、自分を含めたあらゆる人間が、その者の精神年齢にふさわしい姿形で見えるようになってしまったのだ。

 原作となった大島さんの短編をほぼ忠実に実写再現した本エピソードは、なんといっても子どもと大人、それぞれの見た目と精神が噛み合わなくなった人々の、あべこべな言動が奇妙で面白い。

 精神年齢を具現化した世界観もさることながら、本作では主人公の少年……もとい、青年の姿を演じた俳優・佐野史郎さんの怪演っぷりも実に秀逸だ。

 子どもの姿になった両親に呆然としながら食事をとったり、幼稚極まりない担任教師に呆れたりと、タイトル通り「バカばっかり」になった世界を彼は常に冷めた目で眺めている。

 設定上、姿は大人になっているものの、服装だけは小学生のそれという点も実にシュール。ランドセルを背負い、小学生として学校に登校する佐野さんのコミカルな姿は一度見たら忘れられない。

 コメディテイストな世界観でありながら、一方で最後にはしっかりとした教訓と、予想だにしない大オチが展開されたりと、原作のエッセンスを見事に受け継いだエピソードであった。

■幼少期に置き忘れてきた大事なものを思い出す傑作…『ざしきわらし』吉田秋生

 1977年、に『別冊少女コミック』(現:『ベツコミ』小学館)にて『ちょっと不思議な下宿人』でデビューを果たした吉田秋生さん。以降も『吉祥天女』、『BANANA FISH』といった数々の傑作を生みだしている漫画家であるが、彼女の作品が原作となった『世にも奇妙な物語』のエピソードが1991年に放送された『ざしきわらし』である。

 妻と息子を連れ、久しぶりに実家に帰省する主人公。根っからの仕事人間ゆえいまいち羽を伸ばすことができず、家族にも嫌な顔をされてしまう。だが彼は、手作りのプロペラ飛行機を見たことをきっかけに、幼少期に出会ったある不思議な少年との記憶を思い出していく。

 タイトル通り、子どもにしか見えない不思議な存在・ざしきわらしがテーマである本作。原作とドラマでは細かな設定などは異なるものの、主人公とざしきわらしの出会いや過去のエピソードは原作に忠実に描かれている。

 無邪気かつ奔放に過ごした幼少期の牧歌的な風景とは対照的に、あくせくと生きるしかない現在の主人公。ドラマで描かれたこの光景に、自身を重ね合わせた視聴者は多いのではないだろうか。

 大人になった主人公を演じた永島敏行さんの円熟味溢れる演技も素晴らしく、彼がかつての思い出を経て大切なものを取り戻していく姿に、観ているこちらまで心が揺さぶられてしまう。

 あたたかくもどこか切ない主人公の幼少期の記憶、そして思わぬ形で過去と現在が繋がるラストシーン……実に巧妙なシナリオ構成が光る心温まるエピソードであった。

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