■愛ゆえに…ユリアの前では3度泣く

 ラオウは愛するユリアの前で、3度も涙を流している。

 ケンシロウとの最終決戦に備え、究極奥義“無想転生”を手にするためユリアに手にかけようとするラオウ。ユリアはそれを受け入れ、後ろ向きになり膝をつく。

 その姿を見たラオウは自然と涙し、以前トキに言われた“それは愛だ”という指摘を思い出す。「あ…愛…こ…れが!!」と自身でも驚く様子を見せていたが、その思いでユリアに手をかけた。

 その後、倒れたユリアを抱きかかえた際「このラオウにも まだ涙が残っておったわ」と言い、もう一度涙を流している。

 しかし実際には、ラオウはユリアの命を奪ってはいなかった。ラオウはユリアを手にかける寸前、彼女が不治の病に侵されていることを知る。ユリアが自らの幸せを放棄して命を捧げようとする姿に心を打たれ、再び泣きながらユリアの首元の秘孔を突き、仮死状態にしていたのだ。

 ラオウは昔からユリアのことを愛していたが、報われぬ愛に苦しんできた。ラオウにとってユリアは愛と敬意の象徴であり、同時に彼の覇道における最大の葛藤でもあった。そんな彼女の前では、さすがのラオウも人間らしい姿を何度もさらけ出してしまったのだろう。

 

 このように何度も涙を見せているラオウ。振り返ってみると、彼が単なる冷徹な男ではなく、深い人間性を持っていることが分かる。 

 強さを追い求めるあまり感情を押し殺してきたラオウだが、母の死や弟・トキとの最終決戦、ユリアとのかかわりを通じて、その心の奥底には深い愛情や哀しみがあるのが分かる。

 ラオウも私たちと同じように複雑な内面を持つ男だと思うと、ちょっとだけ身近な存在に感じてしまうのは筆者だけだろうか。

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