
原作・武論尊氏、作画・原哲夫氏による『北斗の拳』には、屈強な男たちがたくさん登場する。なかでも主人公・ケンシロウの最大のライバルであり、鬼のように強いキャラといえば、やはり北斗4兄弟の長男・ラオウが挙げられるだろう。
ラオウは自らを“拳王”と名乗り、絶対的な強さを持っていた。自分の邪魔になるものはたとえ師父であっても手にかけるような恐ろしい男である。
しかしそんなラオウだが、意外と涙を流しているシーンもたびたびあるのだ。今回は鬼のようなイメージのあるラオウが涙した、貴重なシーンの数々を振り返りたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■子どもの頃のラオウは純粋、母を失くし涙にくれる
絶対的強者として君臨するラオウ。彼は幼い頃からどのような過酷な修行にも耐え抜き、涙を流すことはなかった。しかし兄・カイオウとともに過ごした幼少期の彼は、まだ純粋で心優しい少年だった。
母を失った悲劇の場面では、その幼さゆえの深い哀しみが描かれている。そのシーンが登場するのはケンシロウとカイオウの直接対決が展開される「憎しみの傷跡!の巻」での、カイオウの回想シーンだ。
爆撃により幼いラオウとカイオウが住んでいたであろう凱武殿が燃えてしまい、急いで駆けつける2人。燃えさかる本堂には幼きケンシロウとヒョウが残されており、それを聞いた母は身体に水をかけ2人を救出に向かう。その後燃え尽きた本堂で発見されたのは、2人の子どもを守り、息絶えた母親の姿であった。その姿を見てラオウは「は……母者~っ!!」と叫び泣いている。
原作ではラオウの幼少期のシーンがたびたび登場しているが、泣き叫ぶ姿はこのときのみである。これ以降、ラオウは北斗神拳伝承者を目指し厳しい修行に耐え、トキと過ごした子ども時代には「オレはもう すでに涙を捨てた!!」と口にしている。
その後のラオウは、世界統一の野望に突き進む鬼となっていく。彼を突き動かした原動力は、愛する母を目の前で失った深い悲しみと無力感だったかもしれない。
■実は良き兄だった…トキとの最終決戦で涙
大人になったラオウが初めて涙するシーンは、余命いくばくもない弟・トキとの最終決戦であった。
天翔百裂拳にて、ラオウを追い込んだかのように見えたトキ。しかし、決定的な一撃を放とうとしたその手は、ラオウによって止められる。そしてラオウは「き…きかぬ きかぬのだ!!」と言い、涙を流す。
そして泣きながら「病をえず 柔の拳ならば おれに勝てたかもしれぬものを!!」「あわれトキ! 幼きころよりおれを追いつづけ 非情の宿命に生きてきた わが弟よ!!」と伝え、豪拳でトキを吹き飛ばすのであった。
その後、完敗し横たわるトキに対し、ラオウは“幼き日のままのお前の心が このオレの枯れた涙を呼び戻した”と伝え、泣いている。その言葉に「もはや悔いはない…宿命の幕を閉じよ」と言うトキに対し、ラオウは命を奪うことなく「体を愛えよ トキ……」と言ってその場を去るのであった。
このシーンから分かることは、ラオウはただの鬼ではなく、弟想いの優しい兄であることだ。ラオウは弟・トキへの深い愛情を抱き、最期の瞬間までその命を大切に思っていた。ともに北斗神拳を学び、同じ運命を背負ってきた兄弟の絆が、ラオウの涙によって浮き彫りになっている名シーンである。