■まさに昭和の兄貴分! 壮絶な死がショックだった『ブラック・エンジェルズ』松田鏡二
さて、ここまでは大人になってから読んだ作品を挙げたが、筆者が小学生だった当時に最も衝撃的だった兄貴分の最期を紹介したい。
それは1981年から連載された平松伸二氏の『ブラック・エンジェルズ』に登場する松田鏡二だ。本作は、法で裁けない悪人を抹殺する暗殺集団の活躍を描いた物語である。
暗殺集団「ブラックエンジェル」に所属する主人公・雪藤洋士は、普段は弱気な青年だが、自転車のスポークで悪人の耳や眉間、脳天を貫通させたりもする恐ろしくクールな暗殺者である。このブラックエンジェルに途中で加入するのが、この松田だ。
元刑事である松田は、空手をベースにした自己流の方法で戦う熱い男だ。バイクにまたがり、凄まじいパワーと俊敏性を見せる姿はカッコ良く、雪藤は「松田さん」と呼び慕っていた。
松田の強さはハンパじゃなかった。ゾウに踏まれそうになっても押し返し、熊をも倒す威力を持つ手刀はもはや達人の域を超えているほど。とくに印象的だったのが、敵対する組織・竜牙会との対決でバズーカ砲の砲弾を両手で受け止めるという離れ業だ。この描写にはシビれたものだった。
そんな松田の最期は唐突に訪れる。
作中、ブラックエンジェルは、敵組織である竜牙会をせん滅することに成功。銃弾を受け傷だらけの松田だったが、戦闘が終わったのち一輪の花を見つけ、恋人の麗羅に渡そうとしゃがみ込む。そこを組織の生き残りに背後から銃撃され、眉間を貫かれてしまうのだ。
「……オオ……」と言いながら、バッと振り返り睨みつける松田。すぐに駆け付けた雪藤が直立する松田を見て安堵する様子があったので、“生きてた!”と安心したのも束の間……なんと松田は立ったまま絶命していた。誰にも別れを告げられないまま亡くなってしまい、その死に様はあまりにショックだった。
松田の死を目の当たりにした雪藤の愕然とした表情、その後、慟哭する姿は忘れられない。物語序盤、クールな雪藤に大きな影響を与えた兄貴分キャラであった。
主人公たちに大きな影響を与え、そして散っていった『ジャンプ』の兄貴分キャラ。その後の作品の展開にも大きく影響を与える存在であり、散り際まで読者に感動をもたらしてくれる。
それにしても、今回読み返してみると『ブラック・エンジェルズ』では善人が襲われて残虐に殺されるシーンも多い。松田との子どもを身籠った麗羅や水鵬などのブラックエンジェルの仲間たちが次々と命を落としていく展開には、少年時代にかなり心をえぐられたものだった。