『最終兵器彼女』や『アイアムアヒーロー』、『ゾンビランドサガ』も…怒涛の展開についていけない!? 「第1話の印象がまったく違った」名作漫画たちの画像
『アイアムアヒーロー』完全版第1巻(プロテカ)

 読者や視聴者の予想を大きく裏切る“どんでん返し”は、漫画・アニメの醍醐味だろう。

 だが、ときにはのちの怒涛の展開を匂わせることなく、まるでまったくの別ジャンルの作品かのように物語が進んでいく作品も存在する。とくに物語の冒頭部分「第1話」の印象からは想像もつかない展開が繰り広げられるとなると、良い意味で裏切られ作品にぐいぐいと引きこまれてしまうものだ。

 そこで、第1話とその後の物語の印象ががらりと変わった作品たちについて見ていこう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■男女の甘酸っぱい恋愛物語と思いきや…『最終兵器彼女』

 まずは、1999年より『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載された、高橋しん氏のSFラブストーリー作品『最終兵器彼女』を紹介しよう。

 平凡な日常を送っていた女子高校生・ちせは、ある日、自衛隊に改造されて“最終兵器”となってしまう。ちせの彼氏である主人公・シュウジは、戦争に巻き込まれていく彼女に悩みながらも支え、追い求めていく……というもの。

 本作の第1話ではシュウジとちせの恋愛模様のみが描かれており、タイトルにある“最終兵器”の要素はまったく登場しない。それどころか、タイトル『最終兵器彼女』という言葉自体も、エピソードの中盤になってようやくちらりと記載される程度。

 この第1話のみを読んだ読者からすれば、2人の男女が不器用にも互いの距離を詰め、心を通わせていく恋愛物語だと思うだろう。

 そんなストーリーに不穏な空気が流れるのが、第2話の中盤だ。突如、街の上空を飛び交う戦闘機と、それを迎撃する兵器によってシュウジらの日常は崩壊していく。ましてやこの兵器の正体こそが、改造されてしまったちせなのだ。そうして、物語は大きく動き出していくこととなる。

 戦火に巻き込まれ激しくうろたえるシュウジだったが、ここまで平穏無事な恋愛物語を予想してきた読者たちも、その予想だにしない展開に度肝を抜かれてしまったのではないだろうか。

 どこにでもいるような2人の高校生のありふれた日常が丁寧に描かれた第1話。対して第2話以降ではそれが壊れ、蹂躙されていく無情さ、悲痛さの落差がもの凄い。実に巧妙な物語構成といえるだろう。

■突如崩れ去る平凡な日常生活…『アイアムアヒーロー』

 ひと口に「ホラー漫画」と言ってもウリとなる恐怖表現はさまざまだ。なかでも“感染”によって人間社会が崩壊していく恐怖を色濃く描いた作品といえば、2009年より『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて連載された、花沢健吾氏の『アイアムアヒーロー』だろう。

 本作の主人公である35歳の鈴木英雄は、プロ漫画家の下で作画アシスタントとして働くうだつの上がらない男性だ。クレー射撃という趣味があるものの、それ以外は基本的に冴えない日常を送っている。

 物語開始当初、しばらくは英雄が繰り広げる平凡な“独身男性の日常風景”が描かれていくのだが、それが崩壊するきっかけとなったのが、彼の心の拠りどころとして登場する彼女・黒川徹子(通称:てっこ)の存在だった。

 てっこの部屋を訪れた英雄の目の前で、なんと彼女は突如豹変する。全身に血管を浮き上がらせ、常軌を逸した眼差しで体を歪にくねらせ、英雄に襲い掛かってくるのだ。

 突如「ZQN」というゾンビのような怪物に変貌してしまったてっことの攻防を境に、物語の雰囲気は一変。英雄が逃げ出した先々にも感染者が現れ、一気に人間社会が崩壊していく。

 本作において巧妙だったのが、英雄の日常の端々に少しずつ「ZQN」の感染が広がっている描写があった点だろう。たとえば、交通事故に遭って重傷を負ったのにもかかわらず何事もなく立ち去る女を目撃するシーン、てっこが腕の絆創膏を見せながら「小学校低学年くらいの女の子がいきなり飛びついて来て……」というセリフなど、これから始まる恐怖への伏線が仕込まれていた。

 そしてそれが顕著となったのが、上述したてっこの怪物然とした姿だ。意表を突かれ、トラウマとなった読者も多いだろう。

  1. 1
  2. 2
  3. 3