『ＳＬＡＭ ＤＵＮＫ』に登場する陵南高校バスケ部監督・田岡茂一は、本作を語るうえで欠かせない名脇役だ。原作者・井上雄彦氏も『漫画がはじまる』（著：井上雄彦×伊藤比呂美）で田岡監督のことを“いちばん好きな監督”と語っているのだが、彼はその人間性や名台詞の数々でファンの心を掴み続けている。
今回は陵南高校バスケ部を率いる田岡監督の「名監督」としての魅力を、あらためて振り返っていきたい。
■厳しくも愛のある指導
田岡監督と言えば、“神奈川県内一”を自負するほど厳しい指導をすることで有名だ。
インターハイ神奈川県予選決勝リーグ・海南大附属戦前のこと。田岡監督が陵南の選手たちに、これまでの練習を振り返らせる場面があった。その瞬間、冷や汗をかき「あー思い出したくねー!!」と叫ぶ選手たち。普段の過酷なトレーニングを象徴するエピソードだろう。
しかし、田岡監督のその厳しさには選手への絶対的な信頼と愛情があった。それに続く「よくがんばった そろそろ陵南が王者になっていいころだ」という言葉に、自信に満ち溢れた表情をする選手たちが印象的だ。選手たちもまた田岡監督を信頼し、ここまで付いてきたことが分かる。
また、キャプテンの魚住純が１年生の時にバスケを辞めると言い出した時、練習についていけず自分はでかいだけと嘆く魚住に「でかいだけ？ 結構じゃないか」「お前をでかくすることはできない 立派な才能だ」と言葉をかけ、そして「お前が３年になった時、陵南初の全国大会出場── オレはそんな夢を見ているんだ…」と語り、魚住を奮起させている。
田岡監督の厳しい指導は決して選手を追い込むだけのものではなく、選手たちの成長と可能性を信じ抜く熱い情熱と深い愛情によるものだった。
■コメディパートも魅力
田岡監督はコメディパートでも非常に魅力的である。
初登場の湘北と陵南の練習試合では、安西先生に対してペコペコと頭を下げ、へりくだった態度を見せつつも「また勝たせてもらう」と、内心意気込む一面が描かれている。そして、試合展開が厳しくなると一気に熱が入って冷静さを失い、大声で陵南の選手たちを怒鳴りつけるのだった。
この練習試合では、田岡監督が桜木花道にジジイ呼ばわりされたり、カンチョーをされたり、挙句にはルーズボールを追ってきた桜木に押し潰されたりと散々な目に遭った。こうしたコミカルなシーンは、彼の人間味を感じさせるものだ。
また、１学年下の海南の高頭力監督とは顔を合わせると火花を散らすライバル関係でもある田岡監督。学生時代を振り返り「今でいえばオレが仙道 、高頭が流川みたいなもんだ」と語るシーンがあるのだが、陵南の部員たちはまったく信じず、口々に「ウソだ！」と糾弾している。指導が厳しいわりにはやけに部員たちがフレンドリーに接しているのも、この田岡監督の特徴だろう。陵南のチームワークの良さをうかがえる一幕だ。
『ＳＬＡＭ ＤＵＮＫ』にはほかにも安西先生、豊玉の金平監督、山王工業の堂本監督など多くの指導者が登場するが、田岡監督ほどコメディパートを盛り上げてくれた人物も珍しいだろう。
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