■あまりにも哀しい武人らしからぬ最期

 初登場時は「茶目っ気たっぷりのおじいちゃん」という印象だったが、のちに最強の一角との呼び声もあった老人が『HUNTER×HUNTER』に登場するアイザック=ネテロだ。

 ハンター協会の会長として物語の序盤から登場していたが、ネテロの恐ろしさがハッキリわかったのはキメラアント編でのこと。

 人間を捕食する脅威の巨大生物が現れると、ネテロはハンター協会の猛者を率いて討伐隊を編成。こうしてキメラアントとハンターたちの壮絶な戦いがはじまった。

 実戦の空気に触れ、少しずつ勘を取り戻していくネテロは、口調や表情も恐ろしさを増していく。かたやキメラアントの王であるメルエムも、作中最強の存在と呼ばれていた。そのネテロとメルエムの戦いは、読者としても息を飲むほどの緊迫感に包まれる。

 ネテロは人並み外れた大技で攻め立てるが、メルエムにはまったく通用しない。武人として最高峰の技を叩き込むも、それすら見切られてしまい、右足と左腕を切断された。さらに切り札だった奥義「百式観音 零の掌」をもってしてもメルエムを倒すことはできなかった。

 するとネテロは貫手で自身の胸を貫き、心臓の鼓動が停止したときに自動発動するよう仕込んだ爆弾「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」を起爆させた。

 その爆発がもたらした“毒”はメルエムにも致命傷を与え、結果としてメルエムだけでなく親衛隊のプフ、ユピーをも倒すことになる。

 メルエムとネテロの戦いはまさに最強同士の決戦であり、読者目線でもどのような結末を迎えるのか最後まで予想できない展開となった。

 卓越した武人であるネテロは己の敗北を認めながらも最後は人間としての意地をみせ、蟻の王を道連れにしたのである。それは武人としては決して正々堂々とした決着ではなく、卑劣ともいえる選択かもしれないが、ネテロの覚悟を感じる恐ろしい手段だ。

 実は最初から人類のために命を投げ出す準備と覚悟を決めていたことに、ネテロという老人の凄みを感じさせられた。

 

 結局のところ、作中屈指の老人たちの「最強ぶり」は、単純な戦闘力だけでなく、メンタル面の強さや、確固たる信念の部分にあるのではないかと思う。覚悟を決めた老人たちの壮絶な最期を見ると、つくづくそう思わされ、自身の未熟さを実感させられるからこそ、最強の老人たちへのリスペクトが生まれるのかもしれない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3