松本零士さんの代表作の1つである『銀河鉄道999』は、宇宙を旅する少年・星野鉄郎と神秘的な美女・メーテルの冒険を描いた壮大な物語だ。2人が立ち寄る星にはさまざまな人や生物が暮らしており、私たちに未知の世界を教えてくれる。
しかし本作には、こんな行く末はキツすぎる……と思うストーリーも登場する。なかには、その星で永遠に独りぼっちで生きたり、気の遠くなるような修行をしなくてはならないケースもあるのだ。今回は、そんな永遠の苦しみを受ける住人のエピソードを紹介したい。
■この先何千年も修行をし続ける「宇宙僧ダイルーズ」
まずは「宇宙僧ダイルーズ」のエピソードを紹介したい。
ゴォーンという凄まじい音が鳴り響く999号の車内。それは乗客の1人で600年も修行を積んだ僧侶・ダイルーズが叩く鐘の音であった。
あまりの凄まじい共鳴震動に999号は脱線し、震動に影響を受けた鉄郎の歯もボロボロになってしまう。そのため999号は救急医療小惑星に臨時停車。鉄郎は歯医者に行くも、すでに手の施しようがなかった。
すべては自分のせいだと知ったダイルーズは、反省して600年かかって造った鐘を自ら粉砕する。機械化人である彼の目はレーダー、耳は精神反応器であるため、普通の音が聞こえない。ダイルーズはまさか自分の鐘が、これほど周りに迷惑をかけていると気づかなかったのだ。
その後、ダイルーズは自らの体に含まれる特殊カルシウム原石を鉄郎の歯の治療のため提供する。結果、“頭だけ”の姿となった彼は、この小惑星で座り続けながら修行を2、3千年続ける決意をしたのだった。
自分の過ちにより周りに迷惑をかけた反省から、動けない姿のまま数千年修行をすると決めたダイルーズ。その姿は僧侶らしく立派かもしれないが、もしも自分だったら……と思うと到底耐えられそうにない。
最後に「機械の体になれば わしのように、長い時間物事を考え続けることができる。そしてな、何千年も苦しみ続けることになる」と、鉄郎に言うダイルーズ。
このセリフには永遠の命の本質を見抜いた、深い問いかけが込められているのだろう。
■頭脳だけになり鳥のフンの中で永久に生きる「アンドロメダ千夜一夜」
「アンドロメダ千夜一夜」で描かれた機械化人の末路もかなり悲惨だ。
砂漠の惑星・アリババに不時着した999号。駅を探すため鉄郎と車掌は砂漠をさまよう。途中で巨大な怪鳥ロックに襲われそうになるものの逃げ出し、なんとか駅に到着した。しかし駅は破壊され、戻った先の999号も車両が一部燃やされており、なんとメーテルはさらわれてしまっていた。これはすべて盗賊アリババの仕業であった。
鉄郎と車掌はメーテルを救助するためアリババの集団に向かうが、そこでさらに“元祖アリババ”によって拉致されてしまう。そこで偶然メーテルと再会するのだが、その後3人はまた“本物のアリババ”の集団に襲われる。
実はこの星は、盗賊しかいない星であった。最後は、“盗みっこ”に夢中になっている盗賊の前に怪鳥ロックが現れ、盗賊集団をすべて飲み込んでしまう。そして、満腹になったロックたちが去ったあとにはフンが残されており、そのフンからは金属の体ごと飲み込まれ消化された機械化人の“助けてくれ”と叫ぶ声が……。
この星では盗賊が盗賊を襲い、その堂々巡りを何百年も繰り返してきたのだった。最終的に盗賊たちは怪鳥ロックに食われ、頭脳だけの姿になって永久にフンのなかで生きることになってしまう。
「オーオー」と叫び、フンのなかで泣き続ける盗賊の頭脳。「あのまま永久に死ぬことのない頭脳が…動くこともできず…砂に埋もれてゆくわ」というメーテルのセリフが悲しくも恐ろしい。
人から何かを盗む生き方しか知らなかった彼ら。その生き方が少しでも違っていれば、きっと別の結末を迎えていたのだろう。