筆者が小学生だった1980年代といえば、『週刊少年ジャンプ』(集英社)が絶大な人気を誇っていた。まさに“ジャンプ黄金期”真っ盛りだった当時、子どもたちの多くが毎週の発売日を楽しみに1週間を過ごしていたものである。
多くの作品が掲載されていたが、やはり一番夢中だったのがバトル漫画だ。読むだけでは飽き足りず、作中に登場するさまざまな必殺技を真似しようとしたのは筆者だけではないだろう。
代表的なのは鳥山明さんの『ドラゴンボール』に登場する「かめはめ波」だ。必死になって気を溜めて(いるような気がするだけだが……)、「は~!」という掛け声に合わせて両手を突き出していた。
いやはや懐かしいものだが、当時の子どもたちは本気で放てると信じ、頑張ったものである。さて、80年代の『ジャンプ』漫画にはほかにも真似した必殺技があるので振り返ってみよう。
■『北斗の拳』親指を鍛え上げて人形相手にどれだけ指をめり込ませるか競った「北斗残悔拳」
1983年から連載が始まった『北斗の拳』(原作:武論尊さん、作画:原哲夫さん)。本作では、主人公・ケンシロウの繰り出す「北斗神拳」がとにかくカッコ良く、みんな真似しようとしたものだった。
無理だと分かっていても、なんとか試そうとしたのが「北斗百裂拳」。みんなして拳を何度も突き出して「アタタタタ……!」と言い合っていた。ほかには、スペード相手に披露した「北斗残悔拳」が印象深かった。
食糧が足りない村に種もみを必死に届けようとしたミスミじいさんの“今日より明日”という希望を圧し折ったのがこのスペードで、その残酷さが作中における世紀末の混沌さを物語っていた。
ケンシロウが両手の親指をスペードのこめかみに突き刺し、指を抜いてから“3秒後に死ぬので後悔しやがれ”と告げて死なせた技が、この「北斗残悔拳」だ。
小学生には限界があるが、親指をどうにか鍛えようと模索した。クラスメイトにはリンゴやみかんを相手に指を突き刺そうとしていた猛者もいる。爪を食い込ませて果汁がこぼれまくっていた……。
さらに、すでに遊ばなくなったソフトビニール人形相手に指を食い込ませ、ケンシロウのセリフを吐くコンテストもクラスで流行った。今思えば変わった遊びだが、「お前はもう死んでいる!」と言いながら技を繰り出すと、気分はケンシロウだ。
『北斗の拳』には、セリフも含め、何かと真似したくなる必殺技が多かったものである。
■『聖闘士星矢』どれだけ冷たい拳に耐えられるか我慢した「ダイヤモンドダスト」
1985年から連載が開始された車田正美さんの『聖闘士星矢』では、「ペガサス流星拳」などの必殺技が多く登場する。基本的にどれも真似できないのだが、まずは小宇宙(コスモ)を高めようとするところから始めなくてはならない。
自分のなかにあるコスモを溜めてから(いや溜まらんでしょ)、次は必殺技に移るのだが、「ペガサス流星拳」はどうしても上述した「北斗百裂拳」と被ってしまう。どちらの拳が速いかで論争したこともあり、両手なら“百裂拳派”、片手なら“流星拳派”と、真似しながら意見が分かれていたものだ。
ほかに人気だったのが、キグナス氷河の「ダイヤモンドダスト」だ。凍気を放って相手を凍らせるこの技を真似しようと、冬の寒い時期に水で濡らした拳を放って水気を飛ばし、離れた位置にいる相手にどこまで届くかを競っていた。
ちなみに体育の時間で着替えているときに背中にそっと拳を当て、その冷たさにどれだけ耐えられるかを競ったこともあった。これもなぜか「ダイヤモンドダスト」と名付けられており、全くもって意味不明な必殺技を披露していたな……。