昨今、漫画やアニメ原作の実写化作品が増えている。原作の再現度が注目される作品において、“人ならざるもの”である「人外キャラ」を誰が演じるのか?ということには、誰しも興味があるものだろう。オリジナルの雰囲気を壊さず、強烈なインパクトを残す俳優たちの演技力には驚くばかりである。
そこで今回は、パラサイトや妖怪など、見た目も驚きの「人外キャラ」を見せつけた女優たちの名演技を紹介したい。
■おしとやかな女性から豹変するリゼに恐怖…『東京喰種 トーキョーグール』蒼井優
2017年に公開された『東京喰種 トーキョーグール』(原作:石田スイさん)は、人間社会に溶け込み人の血肉を貪る“喰種(グール)”が、これを阻止する人間側の組織・“喰種対策局”と激闘を繰り広げるアクションホラー漫画だ。
実写化で主人公・金木研(カネキ)を演じたのは、窪田正孝さん。このカネキが冒頭で恋に落ちるのが、蒼井優さん演じる神代利世(通称:リゼ)だ。カネキはカフェ「あんていく」で、同じ本を愛読しているリゼと出会い、共通の趣味を持つおしとやかな印象の彼女に次第に惹かれていく。
ある日、2人で夜道を歩いていると、リゼは自身も好意を寄せていることを匂わせ、カネキに抱きつく。ドギマギしながら自分も抱きしめようとするカネキだったが、ここで突然リゼは大きな口を開け、ガブリとその首筋に噛みつき肉を食いちぎった。
必死で振りほどくも、そばにあった階段から転げ落ちてしまうカネキ。次の瞬間、リゼは「あ〜〜おいし〜い」と笑い、うろたえるカネキを見下ろしながら今度は凄まじい目力で睨みつける。その瞳はまたたく間に赤色に変化し、リゼが“喰種”だと明らかになるのだ。
力なく逃げ惑うカネキを追い、ゆっくりと近づいていくリゼ。血走った目で笑う蒼井さんの迫力ある演技に、下腹から何かが突き上がってくるような恐怖を感じた。
さらに凄まじいのが、ウネウネとした赫子(かぐね。喰種がもつ捕食器官)を背中から出し、口元から血を垂らしながら「本物の喰種 はじめて見た?」と聞く彼女の姿だ。助けを求めて叫び散らすカネキを、獲物を弄ぶかのようにリゼは翻弄する。その後、赫子でカネキを貫き、その顔についた血を舐め回す姿……もはやトラウマものだった。
蒼井さんは本作の撮影について「楽しかったですよ。(カネキが引っかかってくる姿に対し)なんか釣りをしているような感じ」と、インタビューで語っていた。少しお茶目にも思えるこのコメントからは想像もできない、美しくも恐ろしすぎるリゼを再現した蒼井さんの演技力は圧巻のひと言。冒頭からインパクトは絶大だったものだ。
■クールで怖いけどどこか優しいベラが素敵だった!『妖怪人間ベム』杏
2011年に実写でテレビドラマ化されたのが、亀梨和也さんが主演を務めた『妖怪人間ベム』だ。アニメ放送は1968年に始まり、その人気からアニメのリメイクやコミカライズなど数々のメディアミックスがされ続けている昭和の名作である。
人間になれる日を夢見ている妖怪人間のベム・ベラ・ベロ。心優しく人間の味方の3人だが、時に迫害されてしまうところがなんとも悲しい。
幼少期にアニメの再放送を見た筆者。オープニングに登場するおどろおどろしい妖怪たちがとても怖く、なかでも妖怪の姿になったベラのインパクトが絶大で、子ども心に恐怖を感じたことを覚えている。
さて、実写版でそんなベラを演じたのが、モデルとして名を馳せ、女優としても活躍を続ける杏さんだ。さすがにオリジナル版のベラの怖さにはかなわないだろうと思っていたのだが、これがビックリするくらいハマっていた。
人間の姿でいるときのベラは、独特の濃いめのアイシャドウに口紅が印象的な女性だ。杏さん扮するベラは美しさが際立っており、妖怪としてのミステリアスさ、さらに妖艶さまで感じられる。
だが、その反面、妖怪に変身するときには口を大きく開きながら歯を食いしばり、一点を見据える“目の演技”が半端なく恐ろしい。このあまりのビジュアルの変化に驚いたのは筆者だけではないだろう。
作中では、妖怪の痕跡が残る肌の部分を気にしたり、初恋をした相手に頭を鈍器で殴られ傷つく姿を表現するなど、ベラの葛藤までも存分に表現していた杏さん。見ているこちらが、彼ら妖怪の苦しみや悲しみに感情移入してしまうほどであった。
原作では“怖さ”が目立っていたベラを、優しさとユーモアを交えながら見事に演じた杏さんの女優としての実力はさすがとしか言いようがない。